妊娠関連骨盤帯痛(PPGP)、妊娠関連腰痛(PLBP)、骨盤周囲痛(PGP)は、妊娠中および産後によく起こる筋骨格系の問題で、産後女性の約25%が経験しているとされる。考えられるメカニズムとして、妊娠中の機械的変化とホルモンの変化の組み合わせが挙げられる。
最近のいくつかの研究では、PPGPはホルモンの影響によるものよりも生体力学に由来する可能性が高いことが示唆されている。
妊娠中は平衡状態を維持して関節荷重を分散するために、腰部骨盤領域の関節にかなりの適応変化が起こり、胎児の成長に応じて重心が前方へ移動するのが一般的。
それに伴って胸椎後傾、骨盤前傾、腰椎前弯が大きくなる。
また、妊娠・出産時には恥骨結合の関節軟骨が恥骨の間で拡張する。
米国産科婦人科学会は、合併症のない妊婦に対し、妊娠前、妊娠中、妊娠後の有酸素運動と筋力トレーニングを推奨している。しかし、不適切な運動強度や負荷設定は筋骨格系の損傷につながるため、運動プログラムの開発や処方を行う際には妊娠中や産後の解剖学的な変化を考慮する必要がある。
しかし上記した妊娠中の適応変化はよく知られているが、分娩後36時間以内の恥骨結合の幅、分娩後1ヶ月および2ヶ月の骨盤アライメント及び腰部アライメントの変化に関するデータは非常に限られている。
さらに、経膣分娩や帝王切開後に生じる腰部骨盤アライメントの変化についてはさらに知られていない。
リンクの研究は、経膣分娩または帝王切開後に腰部骨盤アライメントに変化があるかどうか、また分娩後いつからこのアライメント変化が起こるかを明らかにすることを目的としたもの。
産後女性30名(PP群)と無産女性20名(CTL群)に、直立静止姿勢で骨盤前後・側面・腰部のX線検査を実施。デジタルX線画像を解析し、X線画像変数、骨盤入射、恥骨結合幅、仙骨傾斜を測定。
PP群の恥骨結合幅は、産後直後と1カ月後に有意に大きくなっていた。
PP群の仙骨の傾斜は、産後1ヶ月でCTL群より有意に大きかった。
恥骨結合幅や仙骨の傾きに対する分娩方法間の統計的に有意な主効果や交互作用は認められなかった。
Progressive Changes in Lumbopelvic Alignment during the Three Month-Postpartum Recovery Period
・PP群では恥骨結合幅が出産直後と1ヶ月後に有意に大きかった。産後3ヶ月ではCTL群と同程度だった。
・仙骨傾斜角は産後1ヶ月で有意に大きかった。産後すぐと産後3ヶ月では統計的に有意な差は認められなかった。
・腰部骨盤アライメントは分娩様式に影響されないので、妊娠中の生体力学的要求がこれらの腰部骨盤の変化を引き起こすことを示している。
・本研究における出産直後の恥骨結合幅は分娩様式に関係なく6.0mmであり、他の先行研究(出産後36時間以内のX線写真による平均恥骨結合幅7.09mm、三次元経会陰超音波法607mm)の報告と一致する。分娩形態の違いによる恥骨結合の幅に差がないことも他の研究と一致。
・産後3ヶ月の時点で恥骨結合の幅が減少しており、その後、統計学的有意差は認められなかった。
・以前のMRI研究では、産後1ヶ月の時点で産後女性の55%の恥骨に骨髄浮腫が観察された。したがって、恥骨関節の幅の縮小と恥骨関節の炎症の沈静化には時間差がある可能性がある。産後3ヶ月経過しても恥骨関節の完全回復とは限らない。
・他の研究では妊娠中に前方に移動した母親の体幹重心が、産後は元の位置に戻り、股関節を伸展させた立位姿勢になると報告されているが、腰椎伸展角は産後4〜8週で大きくなっていた。この変化は、産後の女性の乳房の重さに対応するために必要であったと推測される。
・骨盤前傾角が大きくなるもうひとつの要因は、腹筋の機能障害の可能性。腰椎矢状面アライメントは、腹筋機能に関連する。
少なくとも産後1ヶ月までは、骨盤安定化のための腹筋の能力が低下したままである可能性が示唆。
産後の女性の40%以上が、この時期にカールアップをうまく行うことができなかった。