本日のブログは好評の妊娠中栄養学。
過去にも妊娠中の栄養状態が新生児にとっていかに重要かというデータを色々まとめてきましたが、今回は新生児のくる病リスクを増加させるビタミンD不足と母親のセレン欠乏についてまとめてみたい。
妊娠中に胎盤で発生する活性酸素は、胎盤機能に大きな影響を与えている。
必須微量元素であるセレン(Se)は、セレノプロテインに抗酸化作用があるため妊娠中の抗酸化物質として重要な役割を担っている。
通常ヒトは食事からSeを摂取し、代謝された後、主に尿から速やかに体外に排泄される。
Seの推奨摂取量は55μg/日、その安全摂取量上限値は400μg/日。
800μg/日を超える摂取は、髪や爪の脱毛、神経、皮膚、歯の健康状態の悪化、口臭のニンニク臭、さらには麻痺など、Se中毒を引き起こす可能性がある。また、低Se状態またはSe欠乏は早産、子癇前症、妊娠中の高血圧などの妊娠中の有害事象と関連することが分かっている。
他方で、新生児のビタミンD欠乏症の影響が注目されている。
過去の研究では臍帯血中のビタミンD濃度は、喘息、喘鳴、呼吸器感染症、1型糖尿病と関連することが示されている。
臍帯血ビタミンD濃度には、年齢、遺伝、ビタミンD摂取量、屋外活動など、多くの要因が影響する。
ヒトの血清Se濃度とビタミンD濃度との間には正の相関があることが中国の研究で明らかになったが、ビタミンD濃度との関連要因については十分に検討されていない。
リンクの研究は、妊婦のSe濃度と新生児の臍帯血清25(OH)D濃度との間に関連があるかどうかを調べ、妊娠中の健康管理のための疫学的エビデンスを提供することを目的としたもの。
中国武漢市の母子1695組を対象に、妊娠第1期、第2期、第3期のSeの尿中濃度と臍帯血清25(OH)Dを測定。
その結果、妊娠第1期、第2期、第3期、および全妊娠期間において尿中Se濃度が2倍になるごとに、25(OH)D濃度が8.76%、15.44%、および21.14%増加することが明らかになった。
全妊娠期間中の母親の尿中Se濃度が低・中3分位の新生児は、高3分位の母親と比較してビタミンD欠乏症の可能性が高いことが示された。
母親のSe濃度が臍帯血ビタミンD状態と正の相関があることを示唆。
Associations between Maternal Selenium Status and Cord Serum Vitamin D Levels: A Birth Cohort Study in Wuhan, China
・今回、母親の尿中Se低濃度が新生児のビタミンD不足の危険因子として観察され、その悪影響は寒い季節に生まれた新生児でより顕著なようだ。
・母体尿中Se濃度と臍帯血25(OH)D濃度との関連を調べた疫学研究は、今回の研究が初めて。
以前の研究では、出生前の金属(V、Co、Tl)曝露が臍帯血25(OH)D濃度の低下に影響を及ぼす可能性が示唆された。
上記3つの尿中金属濃度を制御した後では、尿中Seの臍帯血25(OH)Dへの影響は増加し、V、Co、Tlへの出生前の曝露と妊娠中のSe状態との相加効果の可能性を示し、金属濃度の調節が必要であることが示された。
・出産時期によって層別化したところ、寒い季節に尿中Se状態が低いと新生児のビタミンD欠乏と関連することが観察された。そのメカニズムは不明だが、暖かい季節に出産した母親が紫外線を浴びる機会が多いことが要因である可能性がある。
・皮膚に含まれる7-デヒドロコレステロールは、太陽光のUV-B線に透過するとプレビタミンD3に変換され、その後速やかにビタミンD3へと変化する。
その結果、暖かい季節(6~11月)に出産した妊婦は、寒い季節(12~5月)に出産した妊婦比べてビタミンDが不足しにくく、体内で過剰に生成されたビタミンDはUV-Bの照射によって分解される。
寒い季節に出産した母親では、SeがよりビタミンDを保護することになる。
・Seは優れた抗酸化力を持ち、細胞内構造を酸化的損傷から保護すると考えられている。また、セレノプロテインはミトコンドリアの合成、小胞体の安定化に関与し、胎盤の酸化ストレスの防止に役立つ。
結論
この研究は、妊娠中の尿中Se濃度が臍帯血25(OH)Dレベルの保護因子であることを示している。
尿中Se濃度が低いと、新生児のビタミンD欠乏症の危険因子となる。