環境面の観点から、持続可能なフードシステムの構築の議論が急速に盛り上がっている。
反芻動物の肉や乳製品などの動物由来の食品の消費を減らすことで、食糧生産による環境への負担を低減できるとされているが果たして・・・。
栄養学的にも動物性タンパク質をプラントベース食にシフトすることで、健康状態が改善され、死亡率、心血管疾患、大腸がん、2型糖尿病リスクが減少すると考えられている。
肉を定期的に食べない「フレキシタリアン」は増加傾向にあるとのこと。
過去の横断研究では、ハードコアヴィーガンは葉酸の摂取量が高いことなどいくつかの栄養上の利点があることが報告されている。しかし、動物性食品の混合食と比較すると重要な栄養素の摂取量が低いこと、また、ビタミンB-12とヨウ素欠乏症のリスク、亜鉛摂取量が低いことが報告されている。
鉄摂取量に関しては混合食と同程度かそれ以上であると報告されている。
一部の研究では、ベジタリアンは鉄の摂取量が多い割に非ベジタリアンよりも鉄貯蔵量が少ないことが報告されている。これは植物性食品に含まれる非ヘム鉄のバイオアベイラビリティが、動物性食品に含まれるヘム鉄よりも低いことが原因と考えられる。
一般に雑食の人々の鉄分摂取量のうち、ヘム鉄は10〜15%を占めている。
全粒穀物、豆類、ナッツ類などの植物性食品には、小腸での鉄の吸収を低下させるフィチン酸塩などの抗栄養素が多く含まれている。
一方で植物性食品には一般的に、非ヘム鉄のバイオアベイラビリティを高めるビタミンCが含まれている。
ビタミンB-12、葉酸、鉄、亜鉛、ヨウ素など、重要なビタミンやミネラルを摂取しながら、フレキシタリアンの植物性食生活において動物性タンパク源をどの程度植物性タンパク源に置き換えれば健康上の利点を得ることができるだろうか?
リンクの研究は、健康な成人を対象に動物性タンパク質を植物性タンパク質に部分的に置き換えることが、葉酸、ビタミンB-12、鉄、亜鉛、ヨウ素の摂取量および栄養状態のバイオマーカーに及ぼす影響を調べたもの。
20~69歳のボランティア(女性107名、男性29名)を、食事中のタンパク質組成が異なる3つの12週間の介入群のいずれかに無作為に分けた。
ANIMAL:動物性タンパク質70%、植物性タンパク質30%
50/50:動物性50%、植物性50%
PLANT:動物性30%、植物性70%
いずれもタンパク質摂取量は17E%とした。
ビタミンB-12、ヨウ素、鉄、葉酸、亜鉛の摂取量を4日間の食事記録から、ヘモグロビン、フェリチン、トランスフェリン受容体、葉酸、ホロトランスコバラミンIIを空腹時の血液サンプルから、ヨウ素を尿から分析した。
その結果、エンドポイントにおけるビタミンB-12の摂取量および状態は、PLANT群が50/50群およびANIMAL群よりも低かった。また、ビタミンB-12の摂取量は、50/50群がANIMAL群よりも少なかった。ヨウ素の摂取量と状態は、50/50とPLANTの両方でANIMALよりも低かった。
鉄と葉酸の摂取量はPLANTの方がANIMALよりも多かったが、それぞれのバイオマーカーには有意な差は見られなかった。
動物性タンパク質食品の一部を植物性タンパク質食品に置き換えると、ビタミンB-12とヨウ素の摂取量が著しく低下した。
鉄分については変化が見られなかった。フレキシタリアン食を実践する際は適切な微量栄養素の摂取に注意を払う必要があると結論。
Replacing dietary animal-source proteins with plant-source proteins changes dietary intake and status of vitamins and minerals in healthy adults: a 12-week randomized controlled trial
・検討の結果、動物性タンパク質中心の食生活から植物性タンパク質中心の食生活への移行により、ビタミンB-12とヨウ素の摂取量が有意に低下した。鉄と葉酸の摂取量は植物群が動物群よりも多かったにもかかわらず、鉄と葉酸の状態を示す指標には食事群間での差は見られなかった。
・50/50群とPLANT群では、動物由来のタンパク質を植物由来のタンパク質に置き換えるとビタミンB-12の摂取量が用量依存的に有意に減少することが確認された。ビタミンB-12の摂取量の低下は、血清中のホロTC濃度の低下として反映され、特にPLANT群では12週間の試験中にホロTCが23%減少した。ホロTCはビタミンB-12摂取量およびビタミンB-12欠乏症の最も感度の高いマーカーである。
・動物由来の食品を部分的に制限するだけでもB-12の摂取量に影響があることが示されている。
EPIC-Oxfordの大規模コホートでは、動物混合食のB-12摂取量が最も多く、次いで魚食動物、ベジタリアン、ビーガンの順で摂取量が徐々に少なくなっていった。
興味深いことに、乳製品、特に牛乳の摂取量が多いことは、ビタミンB-12の状態が良いことと関連しており、肉や卵よりも乳製品からのビタミンB-12のバイオアベイラビリティが高いことを示している可能性がある。PLANTグループで牛乳および乳製品の消費を大幅に減らしたことは、ビタミンB-12の状態がかなり急激に低下したことを少なくとも部分的に説明できる。
・今回の結果は、菜食主義の場合にはビタミンB12の補給を考慮するようにという提案を支持するものであった。栄養状態の良い人が雑食からフレキシタリアン食、すなわち動物性食品を制限した植物性食に変更してもビタミンB-12の状態は損なわれないという長年の考え方に強く疑問を呈するものとなった。
・ヨウ素の平均摂取量と状態はすべての食事群で推奨値に達していたが、50/50群とプラントベース群では、動物群に比べてより欠乏が観察され、ヨウ素の摂取量と状態は有意に低かった。
被験者の大半が女性であったため、50/50およびPLANTグループの平均摂取量が妊娠中および授乳中の推奨摂取量を満たしていなかったことは注目に値する。
・今回の結果は、ベジタリアンやビーガンにおけるヨウ素の摂取量や状態が低いことを示した過去の研究と一致している。ヨーロッパの一部の国では、軽度から中等度のヨウ素欠乏症が、成人人口および妊娠中の女性に依然として多く見られる。動物由来のヨウ素源を植物由来の代替品に置き換えることを増やすことで、より持続可能な食生活に移行する場合には、食塩にヨウ素添加塩を使用し、植物由来の代替乳製品にヨウ素を強化することに重点を置くべきである。
・この研究では、PLANTグループの鉄分摂取量が最も多かった。過去の研究でも、菜食主義者やベジタリアンは雑食主義者よりも鉄分摂取量が多いことが一貫して報告されている。
しかし、最近のメタアナリシスでは鉄分の摂取量が多いにもかかわらず、ベジタリアンは非ベジタリアンよりも血清フェリチン濃度が低いことが示唆されている。
これは、植物性の食事から得られる鉄分のバイオアベイラビリティが雑食性の食事から得られる鉄分よりも著しく低いことを示している。
・植物性タンパク質を多く含む食事では、鉄のバイオアベイラビリティに影響を与える強化因子と抑制因子が互いにバランスをとっている可能性がある。
動物由来の鉄の摂取量が減少したため利用しやすいヘム鉄の摂取量も減少し、非ヘム鉄の摂取量が大幅に増加したと考えられる。ヘム鉄のバイオアベイラビリティは、食事の内容にかかわらず一定のようだが 、非ヘム鉄の吸収は、豆類、大豆、全粒穀物に一般的に含まれるフィチン酸塩やポリフェノールなどの阻害物質や、一方で動物性食品に含まれるビタミンCや筋肉組織などの増強物質に大きく影響される 。
・亜鉛の摂取量はPLANT群が最も少なく、これはプラントベース食に関する過去の研究と一致している。
全粒穀物、豆類、ナッツ類、種子類など、植物性タンパク質を多く含む食生活における亜鉛の主な供給源は、亜鉛のバイオアベイラビリティを阻害するフィチン酸を多く含んでいることに留意したい。
・プラントベースタンパク質を70%含む食事で葉酸の摂取量が多かったのは、プラントベースの食事に関する以前の研究と一致している。しかし、摂取量が増加したにもかかわらず、他群間との葉酸の状態に差は認められなかった。
・結論として、動物性タンパク質を植物性タンパク質に部分的に置き換える際に、ビタミンB-12とヨウ素が最も重要な栄養素の一つであることが示された。集団レベルでより多くの植物性食生活を推奨する際には、これらの栄養素の十分な摂取を確保する必要がある。