ビタミンなどの栄養摂取と多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)関連症状との関係を探ることを目的とした考察。
酸化ストレスと抗酸化バイオマーカーは、PCOSに対する酸化ストレスの影響を打ち消すことで、女性におけるPCOSの重症度と心血管イベントのリスクを効果的に修正することができる。ビタミン(ビタミンD、葉酸)ミネラル(フラボノイド、イソフラボン)、メラトニン、プロバイオティクスのサプリメントはPCOSに関連する症状の軽減に大きく貢献すると結論。
Effect of Nutritional Supplementation on Oxidative Stress and Hormonal and Lipid Profiles in PCOS-Affected Females
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は不妊症の主要な原因の一つで、心血管イベントを引き起こす可能性もある。PCOSは年齢や人種を問わず、高アンドロゲン血症とインスリン抵抗性(IR)を特徴とする。
酸化ストレスは、IR、肥満 、PCOS、2型糖尿病および心血管疾患に関連する様々な病理学的疾患で認識されている。酸化ストレスの発生は、生体内でフリーラジカルと抗酸化物質の生成が不均衡になったときに起こる。フリーラジカルは生体内の微小分子や高分子と相互作用することで酸化ストレスが発生し、DNAやタンパク質の損傷を引き起こす。正常な活性酸素種(ROS)は、胎児や胎盤の発育、正常な卵母細胞の成熟や卵胞形成などの胚発生プロセスに関与しているが 、過剰な酸化ストレスは、胎児発育制限(FGR)、流産、胎児死亡の原因となる。
PCOSにおいて酸化ストレスを増加させる要因は、肥満、赤血球、高血糖。PCOSの病態における酸化ストレスの役割は明らかになっていないが、インスリン抵抗性と酸化ストレスが相互に影響しあっていることがわかっている。
・ビタミンD
ビタミンDとPCOSの間の分子メカニズムは不明。
ビタミンD3を補給するとPCOS女性の生化学的パラメータが改善し、PCOSの病因となる炎症の進行がビタミンD3によって阻止される可能性を示唆した研究と、PCOSの有害な代謝事象におけるビタミンDの役割を確認したデータがそれぞれ存在する。
一方、月経回数の改善を除いて、ビタミンD補給後のアンドロゲンプロファイルには有意な差がないとする研究もある。
さらに他の研究では、肥満のPCOS女性では25-デヒドロキシビタミンDレベルが有意に低下していると結論。
さらに、PCOSの女性にビタミンDを補給すると高感度C反応性タンパク質(hs-CRP)、マロンジアルデヒド(MDA)、総抗酸化力(TAC)が改善されたが、一酸化窒素(NO)と総グルタチオン(GSH)のレベルには影響を与えなかったと結論づける研究もある。
PCOS患者のホルモンと酸化ストレスの改善には、低用量ビタミンDの日常的な補給(≦1000IU/日)が有望とするデータもある。
この研究では、ビタミンDがPCOSの酸化ストレスレベルを改善するという他の研究者らのデータと一致する結果が得られた。
ビタミンD3とMitoQ10の併用により、酸化マーカーであるSODとMDAが有意に減少し、ホルモンマーカーであるエストラジオール、プロゲステロン、FSH、LH、LH/FSHが減少したという研究もある。
・フラボノイドとイソフラボン
フラボノイドとイソフラボンはポリフェノールの一種であり、抗酸化作用、抗糖尿病作用、抗炎症作用がある。
PCOSのメタボリックシンドロームの治療のために6つのフラボノイドクラスを分析した研究では、フラボノールの摂取のみがPCOSのメタボリックシンドロームに対して有効であることを明らかにした。
PCOSの女性に大豆イソフラボンのゲニステインを1日36mg、12週間投与したところ、脂質プロファイルの改善を示し、総コレステロールの顕著な改善とLDLの減少が観察された研究がある。
体格測定の特徴、ホルモン環境、月経周期、全体的なグリコインスリン血性代謝には変化が見られなかった。
・セレン
セレン(Se)は、酸化ストレスに対する保護作用があり、生殖組織の形成に欠かせない。PCOSの女性ではアンドロゲン濃度の高さ、フリーラジカルおよびセレン濃度の不足がみられる。
他の研究者は7つの研究のシステマティックレビューを行い、Seの補給がPCOS患者のBMIと体重を減少させることを報告した。さらに、PCOS女性を対象に、1日あたり200マイクログラム(μg)のSeと8×109コロニー形成単位(CFU)/日のプロバイオティクスを12週間補給したところ、体重と心血管代謝の有害な結果が減少した。
一方、PCOSの女性に200μg/日のSeを12週間投与しても体重の変化は見られなかったと指摘してい流研究もある。その研究者らは、セレンを無差別に摂取するとPCOS患者のインスリン抵抗性が悪化する可能性があると指摘している。これらの矛盾は介入期間、被験者の臨床的特徴、身体活動および食事のレベルの違いによる可能性がある。
他の研究によると、PCOSの女性は血清中のSe濃度が低く、インスリン濃度とHOMA-IRが上昇していたが、対照群と比較すると統計的に有意ではなかった。
セレンとプロバイオティクスを共に補うことで、体重、血清インスリン値、インスリン抵抗性の評価の恒常性モデルが有意に低下し、インスリン感受性指数が有意に上昇、さらに、血清トリグリセリド、総LDL、総-/HDL-コレステロール比が減少したとする研究もある。
同様に、1日200μgのSeを8週間摂取することで、プラセボと比較して血清デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)レベルが低下し、にきびや多毛症が減少し妊娠率が高くなったと報告した研究もある。
・プロバイオティクス
プロバイオティクスは腸内細菌叢との相乗効果により、代謝に有益な効果をもたらす。
2型糖尿病患者の空腹時血糖値と抗酸化状態の改善や、糖尿病ラットにおける耐糖能異常、高血糖、高インスリン血症、脂質異常症の発症の遅延が示されている。
多種類のプロバイオティクスを8週間投与した患者において、空腹時血糖値と血清インスリン値が低下したが、CRPには影響がないことを発見した研究もある。
PCOSにおける炎症やインスリン抵抗性は、腸内細菌叢の異常と関連し、PCOSの病態生理やインスリン受容体の機能に影響を与える。腸内細菌叢の異常(dysbiosis)を克服するために、プロバイオティクスのサプリメントが推奨されている。PCOSのラットに糞便微生物叢移植(FMT)と乳酸菌移植を行ったところ、FMT群のラットは発情周期が改善され、乳酸菌を投与したラットのほとんどでアンドロゲン生合成の減少が観察された。
・ビタミンE、葉酸、オメガ3脂肪酸
ビタミンEはフリーラジカルを無効にする。
ビタミンEはその抗凝固作用と抗酸化作用により、不妊女性の子宮内膜の特徴を改善できるとするデータもある。
オメガ3脂肪酸とビタミンEの同時補給は、PCOS被験者においてリポタンパク質(a)、mRNAおよび酸化LDL mRNAの遺伝子発現をダウンレギュレートし、血清TGA、VLDL、LDL-およびtotal-/HDLコレステロールを有意に減少させた。血漿中のTACレベルは、プラセボ群と比較して、マロンジアルデヒドレベルの顕著な減少とともに増加した。
亜麻仁油のオメガ3サプリメントを12週間投与したところ、インスリン値、HOMA-IRが有意に低下し、インスリン感受性指数が上昇し、またプラセボ群と比較して、血清TGA、VLDL-コレステロール、高感度C反応性タンパク質(hs-CRP)の減少が認められた研究もある。
オメガ3脂肪酸の摂取は、血清インスリン値、HOMA-IR、TT、多毛症を有意に減少させる一方で、インスリン感受性指数(QUICKI)を増加させることがわかった。
・PCOSにおける炎症
インスリン抵抗性、酸化ストレス、炎症はPCOSと密に関連しており、メタボリックシンドローム発症の危険因子とも言われている。多くの炎症性メディエーターやケモカインは、さまざまな女性の生殖器官の機能に重要な役割を及ぼす。
CRPの上昇は、PCOS患者に見られる明確な炎症マーカーの1つで、この現象は、他のメタボリックシンドロームの患者にも多く見られる。
・効果的なサプリメントと効果的でないサプリメントの比較
PCOS患者の一酸化窒素(NO)レベルの改善には、シンバイオティクスの補給と食用大豆が有効であることが確認されている。
TACとMDAレベルは、クロム、メラトニン、食用大豆、プロバイオティクス、ビタミンDの補給を伴うカルニチンの補給と伴に改善された。
セレンの補給は、インスリン抵抗性を増加させる可能性があるため注意が必要
PCOSの主な症状の1つである多毛症は、臨床試験のほぼすべてで観察され測定された。メラトニン、イノシトール、セレン、プロバイオティクスを含むサプリメントが、多毛症に良い影響を与えました。
PCOSの指標であるModified Ferriman¬-Gallaway(mFG)スコアは、プロバイオティクスとセレンの補給によって有意に改善された。総テストステロン値の急激な低下はオメガ3脂肪酸、カルニチンとクロムの共同補給、メラトニン、プロバイオティクス、セレン、ビタミンDで観察された。
症状、脂質およびホルモン測定値のいずれかの改善に有意なプラスの効果が見られなかったのは、αリポ酸、クルクミン、ビタミンE、ヒドロキシサフランイエローAの補給が含まれていた。
・遺伝子発現への影響
40人の不妊症のPCOS被験者に200 µgのセレンを8週間投与したところ、PPAR-γおよびGLUT-1の発現レベルが有意に上昇し、LDLRの発現レベルが低下した。顆粒膜細胞培養において、オメガ3 EPAを25~200μg投与したところ、卵胞の分化と卵子の成熟に不可欠なIGF-1の発現量が増加し、COX2の発現量が減少した。クルクミンの補給は血清中のGPxの活性を有意に増加させたが、SIRT1遺伝子の発現については統計的に有意ではなかった。
PCOS被験者におけるインターロイキン-1(IL-1)および腫瘍壊死因子α(TNF-α)の遺伝子発現は、メラトニンの補給によってプラセボと比較し有意に低下した。
・PCOSにおける酸化ストレス
異常な酸化状態は糖尿病、心血管疾患、PCOS、癌などと関連があるとされる。酸化ストレスはインスリン抵抗性、アンドロゲン過剰、慢性炎症を引き起こすPCOSの病態に影響を与える。
酸化ストレスの主なマーカーには、ホモシステイン、マロンジアルデヒド(MDA)、非対称ジメチルアルギニン(AMDA)、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、グルタチオン(GSH)、パラオキソナーゼ1(PON1)などがある。PCOS女性における酸化ストレスは、遺伝的要因と環境要因の両方に影響される。
・マロンジアルデヒド(MDA)
多価不飽和脂肪酸の脂質過酸化により、マロンジアルデヒドが生成される。PCOS女性におけるMDA濃度の増加を示した研究、PCOS患者ではMDA濃度が上昇しているが肥満とは無関係であることを示した研究がそれぞれ発表されている。
・一酸化窒素
一酸化窒素 (NO)は一酸化窒素合成酵素(NOS)によって、L-アルギニン、酸素、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸から生合成され、細胞内のシグナル伝達に重要な役割を果たしている。単球、マクロファージ、好中球も、免疫反応において少量のNOを合成する。
PCOS患者と対照群との間でNOレベルに統計的な有意差がないことを発見した研究がある。NOの前駆体であるL-アルギニンを投与したラットの卵巣には多嚢胞性の特徴が見られ、PCOSの病態生理におけるNOの役割が強調された。
・総抗酸化能(TAC)は、生成されたフリーラジカルに対する抗酸化反応を推定するもの。メタアナリシスによると、TACレベルはPCOS被験者と対照群で類似していた。さらに他の研究では、BMIと喫煙状況をマッチさせた対照群と比較して、PCOS患者ではTACレベルが有意に低いことが示されたが、年齢とBMIをマッチさせた対照群と比較して、PCOS患者ではTACレベルが高いことを報告した他の研究とは不一致である。これらの矛盾した研究は、PCOSと抗酸化物質の相互関係を明らかにするために、さらなる研究を行う必要性を示唆している。
・還元型グルタチオン(GSH)
グルタチオンは、酸化ストレスに耐えるために細胞内で生成される抗酸化物質。グルタチオンは還元型(GSH)と酸化型(GSSG)の比率で存在し、ホメオスタシスを維持している。ある研究では、PCOS女性の平均GSHレベルが対照群に比べて50%低いことが判明。これはGSH枯渇における活性酸素の生成増加の役割を指摘した他の研究と一致する。