サプリ:ミオイノシトール、SOD、葉酸、L-カルニチン、L-アルギニン、NAC、レスベラトロール
不妊症の約半数は男性因子に起因しているという。
特に酸化ストレスは、男性因子に関連する症状の共通の原因となっている。
高レベルの活性酸素種(ROS)は、精子の運動性を低下させ、DNA、タンパク質、脂質の酸化を増加させることにより精子の質を低下させる。
複数の抗酸化物質の補給は、抗酸化物質の相乗効果によって活性酸素レベルを低下させることで精子の質を向上させる。
ミオイノシトール(MI)とd-キロイノシトール(DCI)も精子の質を改善する。MIは精子細胞において、細胞質のカルシウムレベル、受精能、ミトコンドリア機能を制御する多くの伝達機構に関与している。一方、DCIは、テストステロンを生成するステロイド生成酵素であるアロマターゼのダウンレギュレーションに関与している。
精子の運動性とミトコンドリア機能に対するMIの有益な作用は、抗酸化作用以外にも、インスリン感作作用、ホルモン調節作用などが考えられる。
ミトコンドリアは、生殖生理学において極めて重要な役割を果たしており、卵母細胞、精子の発育にプラスの影響を与えている。
一方、DCIの精子に対する影響はMIよりも小さい。
最近の研究では、DCIはアロマターゼの発現を調節し、その結果テストステロン値が変化した。この治療法は、精子の変化に伴うホルモンバランスの乱れに有効であると考えられる。
Oxidative Stress and Male Fertility: Role of Antioxidants and Inositols
・不妊症の30〜80%で大量の活性酸素種(ROS)による酸化ストレスが観察されている。高濃度の活性酸素は、主に精子の運動能力を低下させることでDNAの酸化レベルが上昇し、精子の質の低下を促す。
・生活習慣、遺伝、化学物質への曝露は静脈瘤や内分泌バランスの乱れなど、酸化ストレスやDNA損傷に関係し、不妊症の要因となる。
・ウイルスも感染した組織に炎症を引き起こし、活性酸素の生成を促進する。とりわけ精巣に感染するウイルスの顕著な例として、コロナウイルスが挙げられる。ウイルスは、精巣に発現しているアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して細胞に取り込まれる。
・SARS-CoV2に感染すると、マロンジアルデヒド(MDA)とともに活性酸素濃度が上昇することが臨床研究で報告されている。さらに、SARS-CoV2に感染すると精子の精子の運動率が低下し、運動性と形態の両方が損なわれることが報告されている。
・男性酸化ストレス不妊症(MOSI)は、「精液の特性に異常があり、酸化ストレスを伴う不妊症」を定義する用語として登場した。
MOSIの特徴は、特発性不妊の明確な原因を持たない精液パラメータの異常。
・酸化ストレスは男性不妊の新たな危険因子であり、抗酸化物質
は、特発性不妊症の治療法として推奨されている。興味深いことに、異なる抗酸化物質には相乗効果があり、複数の抗酸化物質が男性不妊の有効な治療法となりえる。
・抗酸化物質のほとんどは活性酸素のレベルを低下させることによって作用し、その結果、精子の運動性を向上させる。その意味でミオイノシトール(MI)は重要な天然化合物である。
・MIは精子細胞において、受精能やミトコンドリア機能や細胞質内のカルシウムレベルを制御する伝達機構に関与している。
・D-キロイノシトール(DCI)の精子に対する最適な投与量と投与時期を評価した研究では、DCIがステロイド生成酵素であるアロマターゼ(アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素)の発現を阻害し、テストステロンが蓄積されることがわかった。
・精子の膜は多量の多価不飽和脂肪酸で構成されている。PUFAは受精に必要な流動性を保証すると同時に、多量のPUFAはPUFAは脂質過酸化(LPO)に対して脆弱であるため過剰な活性酸素によるダメージを受けやすい。
・生理的レベルの活性酸素は精子の機能を調節するために必要だが、過剰な量は
精子の保護を担う抗酸化機構を圧倒する。精液中には、正常な細胞機能を維持するための抗酸化システムがあり、酵素的および非酵素的な因子で構成されている。
・スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSHPX)は正常な細胞機能を維持するための抗酸化システムで重要な役割を担っている。
・抗酸化物質の1つである葉酸はビタミンB群の1つであり、精子の成長に欠かせないDNAの合成に寄与し、酸化性フリーラジカルを効果的に除去し、脂質過酸化(LPO)を抑制する。
不妊症の男性への葉酸の補給について、様々な研究で分析されている。ある研究では、15mgの葉酸を3ヶ月間補充したところ精子の数と運動性が改善され、未熟細胞の数が減少したと報告している。
・最近のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、不妊症の男性を対象とした7つの無作為化比較試験(RCT)を分析し、葉酸の経口補給を単独または硫酸亜鉛と組み合わせ、インヒビンB、FSH、テストステロンを評価し、同時に濃度、形態、運動性などの精子の特性を評価した。葉酸はインヒビンBの主な生産者であるセルトリ細胞を刺激する。インヒビンBの血清濃度は、精子濃度、精巣容積、精子の状態と関連する。インヒビンBの濃度はセルトリ細胞の質を反映しており、ヒトにおける造精マーカーとなる。
葉酸を補充すると精子濃度を有意に向上させる。
・L-カルニチンは、精巣上体組織、精液、精子において、遊離型またはアセチル化型として検出され、精子の運動性と成熟度を向上させる。さらに、L-カルニチンおよびL-アセチルカルニチンは、精子の酸化的損傷からの保護にも関与している。さらにL-カルニチンは,フリーラジカルスカベンジャーとしての活性を示し、特にスーパーオキシドアニオンに対しても活性を示す。
・L-カルニチン、L-アセチルカルニチンのどちらのカルニチンも精子の総運動量を改善する可能性が高く、正しくない形態の精子の割合を減少させることが示された。
・ L-アルギニンは精子の形成に積極的に関与し、膜脂質の過酸化を防止する。
L-アルギニンは一酸化窒素の生合成を介して精子の質を向上させる。
一酸化窒素は一酸化窒素合成酵素(NOS)によって合成され、これらの酵素はL-アルギニンがL-シトルリンとNOに変換されることを触媒する。
研究結果は賛否両論だが、低濃度のNOがヒトの精子の受精能を高めるという結果もある。さらに、NO生成が精子タンパク質のチロシンリン酸化の促進に関係し、これが精子の受精能力向上につながることを示唆する研究もある。
・NOが優勢になるとスーパーオキシドを不活性化し、スーパーオキシドが優勢になるとNOを不活性化する。したがって、NOの濃度が高ければ、スーパーオキサイドを不活性化することで脂質過酸化を抑制できると考えられる。L-アルギニンがNOの生成を増加させることから、L-アルギニンは精子を過酸化脂質から保護しているとも考えられる。
・in vitro研究では、運動性の低いヒト精液をL-アルギニンとインキュベートしたところL-アルギニンが精子の運動性を高めることがわかった。このことから
L-アルギニンは、精子の運動能力が低下している男性の人工授精において有用な治療法となる可能性がある。
・L-アルギニンの摂取で精子の運動性が改善さたが、副作用はなかった。
・別の研究では、無精子症の患者45人にL-アルギニン、インドメタシン、カリクレインを投与した。15人の患者は塩酸L-アルギニンを、15人は抗炎症剤のインドメタシン、15名がカリクレインが3ヶ月間投与された。3つの治療法はすべて、精子の数と運動性を増加させた。
・男性50人の不妊症患者を対象にL-アルギニンアスパラギン酸塩3gを2錠またはプラセボを1カ月間投与し精子の質を分析した。
その結果、副作用なしに精子の量、濃度、運動性形態を改善した。
N-アセチルシステイン(NAC)は、
(1)NO2や次亜ハロゲン酸(HOX)などの特定の酸化種に対する直接的な抗酸化作用を発揮する。HOXは、多くの生物学的に重要な分子と反応し細胞毒性を引き起こす。
(2) NACはシステインの前駆体として働き、グルタチオン合成に重要な役割を果たし間接的な抗酸化作用を持つ。
・不妊症の男性120名を無作為に2つのグループに分け、NAC(600mg/日)を3ヶ月間経口投与したグループと、プラセボを投与した。NAC投与後、対照群と比較して血清中の総抗酸化能が高く、総過酸化物および酸化ストレス指数が低かった。これらの有益な効果は、血清中の活性酸素種が減少したこととと精液の粘度が低下したことによるものである。
・男性50人を対象とした別の試験では、NAC(600mg、1日3回)を投与したところ、投与前に比べて精子の濃度と運動性が有意に増加したのに対し、形態異常とDNA断片化の割合が有意に減少した。また、NRF2遺伝子の発現や抗酸化酵素のレベルも有意に改善されました。
・レスベラトロール(RSV)は、主にブドウやワインに含まれる天然のポリフェノール化合物で主に抗酸化作用によって活性酸素の生成を抑制する。
さらにSODなどの抗酸化酵素を誘導することで,活性酸素の生成を抑制する。また脂質過酸化を引き起こす可能性のある銅などの金属をキレートする。
RSVには精巣や精巣上体を保護する作用もある。