地球の人口は2050年までに96億人に増加するされており、食糧不足が懸念されている。
特に食肉生産は水の消費と温室効果ガスの排出に影響を与えるため、代替タンパク質の開発が進められている。
現在話題のプラントベースのタンパク質は環境面での影響は少ないが、必須アミノ酸がすべて含まれていなかったり、抗栄養化合物が含まれていたりするものがあるためタンパク質としての栄養学的品質は低いという考察もある。また、個人の持つ消化酵素や腸内細菌叢の種類によっては消化不良を起こし、胃腸に悪影響を及ぼす可能性もある。
昆虫は、新たな持続可能タンパク源として注目されているが、昆虫の摂取が消化管内のプロセスや腸内細菌叢(GM)に及ぼす影響はまだ確立されていない。
ご紹介する研究は、健康なラットモデル(n=30)を用いて、食餌の豚肉の一部を昆虫タンパク質(Alphitobius diaperinus)で代替して4週間の食事療法を行った場合の効果を検討したもの。
解析の結果、昆虫タンパク質を摂取すると、豚肉タンパク質のみを摂取した場合と比較して大腸内にタンパク質残渣が蓄積されることがわかった。大腸内のタンパク質残渣の増加は、芳香族アミノ酸残渣の代謝の違いに反映された。また、昆虫を摂取すると生成されたBCAAが宿主に吸収され、血漿中のBCAA濃度が上昇した。豚肉食を与えたラットと、豚肉の一部を昆虫に置き換えた食餌を与えたラットのいずれにおいても、GMはLactobacillus、Clostridium Cluster XI、Akkermansiaが優勢であった。欧米の一般的な雑食動物の食事に昆虫を導入すると、腸内細菌叢の多様性が変化し、内因性代謝に影響を及ぼすことが明らかになった。
肉の代替となる新たなタンパク源を評価する際に、消化管への影響を評価することの重要性を示していると結論。
Partial Substitution of Meat with Insect (Alphitobius diaperinus) in a Carnivore Diet Changes the Gut Microbiome and Metabolome of Healthy Rats
・昆虫のタンパク質含有量は、従来の動物性・植物性食品、例えば牛肉、卵、牛乳、大豆などと同等である。さらに、昆虫に含まれるすべての必須アミノ酸の含有量は、WHOの要求を満たしていいる。
・昆虫タンパク質の使用が筋タンパク質合成および筋肉量に及ぼす影響を調査した研究はほとんどないが、昆虫タンパク質はアミノ酸の利用可能性と筋タンパク質合成の刺激の両方において、ホエイほどの効果はないことが示されている。
・ヒトの若い男性を対象に昆虫タンパク質の食後吸収を調査したところ、昆虫タンパク質はすべての必須アミノ酸を供給することが実証され、昆虫タンパク質はホエイよりもアミノ酸の生物学的アクセス性が低いが、大豆タンパク質と同程度であることがわかった。
・2週間のヒト介入試験では、25gのコオロギ粉末を毎日摂取すると、糞便中の短鎖脂肪酸の含有量の減少との関連が示され、腸内細菌叢の組成にわずかな変化が観察された。
・GM組成の分析と並行して消化管内の代謝活動を評価したところ、昆虫タンパク質が肉タンパク質と比較して消化管内で明確に代謝されていることがわかった。
・小腸では昆虫のタンパク質を摂取することで、肉のタンパク質を摂取した場合に比べて芳香族アミノ酸であるチロシンとフェニルアラニンの量が多くなることがわかった。これらの芳香族アミノ酸は、腸内での発酵を促進する高い能力を発揮することが知られている。
・大腸内容物では、4-ヒドロキシフェニルラクタートが昆虫食を摂取した場合、豚肉食と比較して増加した。さらに、4-ヒドロフェニルラクタートはチロシンの代謝に関与しており、小腸でのチロシン濃度の上昇と関連している可能性が高いと考えられる。
・GMと代謝物の相関分析では、大腸内容物のチロシン濃度はBarnesiellaとGordonibacteriaの相対的な存在量と相関していた。したがって、昆虫摂取による腸内のチロシン代謝の違いは、これらの特定の細菌の存在を有利にする変化によるものと思われる。
・血漿中のすべての分岐鎖アミノ酸(BCAA)のロイシン、イソロイシン、バリンの濃度は、昆虫置換飼料を摂取したラットの方が、従来の食肉製品を摂取したラットよりも高かった。BCAAの血中濃度は2型糖尿病の将来的なリスクの増加と関連している。したがって今回の発見は、人間の健康に影響を与える可能性があるが、昆虫の摂取量と2型糖尿病のリスクとの関連性を明らかにするためにはさらなる研究が必要。
・昆虫タンパク質を摂取すると、大腸内でのタンパク質の残留物や代謝のパターンが異なり、生成されたBCAAの宿主への吸収が増加することが示唆された。このように、昆虫タンパク質は持続可能性の観点から肉の代替品として魅力的に映りるが、さらなる研究が必要である。