緑茶成分に関する興味深いデータを見つけた。
今後緑茶ポリフェノールについて考える上で鍵になる文脈が多く、非常に示唆に富んでいるのでまとめてみたい。
肝臓は解毒、代謝などいくつかの機能を有し、それぞれの機能が互いに補完し合っている。
中でも解毒機能である異物質の生体内変換は、体内の恒常性を維持するために極めて重要。体内で利用されない物質は速やかに排泄されるが、これを促進するのがゼノバイオティクスの二相代謝。
肝機能障害の原因のひとつは、薬物やその代謝産物、栄養補助食品やハーブ製剤による障害で、薬物性肝障害(DILI)に分類される。DILIは急性肝炎の約10%を占め、急性黄疸や急性肝不全でもかなりの割合を占める。
DILIの病態は非常に複雑で、まだ完全には解明されていない。
薬物および/またはその毒性代謝産物は肝細胞に直接作用して、炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア障害を誘発する。
体内の薬物を除去することはできないが、適切な栄養摂取は身体と肝臓を強化し、DILIによる有害な変化を緩和する。例えば、緑茶や最小限の加工しかされていない植物性食品の多くに含まれているフェノール化合物には、抗酸化作用や抗炎症作用を示すものがある。
緑茶は年齢や生理的状態に関係なく摂取できるため、DILIにおける食事療法の基本要素として優れた候補となる。緑茶はエピガロカテキンガレート(EGCG)を中心とするカテキン類を最も多く含み、強い肝保護作用を示す。
リンクのレビューは、緑茶フェノール化合物の肝機能への影響についての各国の文献から得られた研究結果を分析したもの。
肝臓におけるEGCGの直接的な解毒作用、EGCGが腸内細菌叢に及ぼす影響、および腸内細菌叢が肝臓の健康に及ぼす影響に注目している。
Regular Consumption of Green Tea as an Element of Diet Therapy in Drug-Induced Liver Injury (DILI)
DILIのリスク因子
DILIの病態生理学的メカニズムは多面的だが、薬剤の直接的毒性作用、酸化ストレス、炎症、ミトコンドリア障害、免疫反応など、いくつかの重要プロセスが同定されている。DILIの最も一般的な原因は、抗菌剤、ハーブ、栄養補助食品、医薬製剤の使用。あるデータによると、アセトアミノフェン過剰摂取症例の50%以上が急性肝不全に至っている。アセトアミノフェンの大量使用は、反応性代謝物のN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を蓄積し、NAPQIは肝細胞の壊死を引き起こす。
遺伝的要因、性別(女性)、高齢、栄養状態、生活習慣(喫煙、アルコール、薬物)、およびポリファーマシー(複数の薬剤に同時に暴露されること)もDILIのリスク要因。加えて、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、肝疾患、免疫抑制状態の合併も重要な影響を及ぼす。
また、脂質過酸化は肝疾患において肝細胞の壊死や炎症過程を引き起こす主要発症因子。
肝機能に対する腸内細菌叢の影響
腸-肝臓軸は、門脈と胆管系を介して腸と肝臓が相互にシグナリングすることで機能している。
肝臓は腸由来の細菌代謝産物にさらされており、腸内細菌叢は様々なメカニズムを通じて肝機能と健康に影響を及ぼす可能性がある。腸内細菌叢は酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する。SCFAは粘液産生を刺激し、腸管内腔と上皮細胞の間に保護バリアを形成することで腸の完全性を維持する。腸管バリアの完全性の変化・機能不全は腸内細菌叢異常(ディスバイオシス)につながり、異常を起こした細菌叢由来成分が肝臓に移行し、肝臓疾患の一因となる可能性がある。またディスバイオシス誘発性慢性炎症とそれに起因する免疫調節異常は、慢性肝疾患の発症に影響する。
腸内細菌叢は胆汁酸代謝にも影響する。胆汁酸は肝臓でコレステロールから合成され、ファーミキューテス属、バクテロイデーテス属、放線菌、プロテオバクテリアなどの腸内細菌叢によって小腸内で生体内変換を受ける。一次胆汁酸は細菌叢によって脱共役され、グリシン、タウリンが生成され、さらに二次胆汁酸に代謝されて体外に排泄される。胆汁酸とその代謝産物は、抗菌作用を発揮し、宿主のシグナル伝達経路を活性化することで腸内細菌叢組成を調節する。細菌叢組成の変化が代謝産物の産生に変化をもたらし、肝疾患の進行に寄与している可能性がある。
DILIの食事療法における緑茶の可能性
DILIの危険因子には大量の薬品使用以外に、酸化ストレス、炎症、慢性疾患なども要因とされ、酸化ストレスと炎症は、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病の指標である。
緑茶は抗酸化作用、抗炎症作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、肝保護効果が実証されている。
フェノール化合物、特にEGCGなどのカテキンがこれに寄与している。緑茶はDILIを含む肝疾患の食事療法の構成要素として考えることができるが、EGCGに起因する緑茶の過剰摂取にも注意することが重要。
緑茶の肝保護効果
緑茶の肝保護効果には、細胞のアポトーシス抑制、ALT、AST、ALP活性、腫瘍壊死因子α(TNF-α)調節、抗酸化力能向上が含まれる。
四塩化炭素CCl4による急性肝障害マウスでは、緑茶の摂取(200、400、800mg/kg、1日2回、7日間)は、肝臓の抗酸化能を改善し、カスパーゼ-3依存性シグナル伝達経路を通じて細胞のアポトーシスを防ぐことで肝保護効果を示し、血清ALT、AST、ALP活性の低下、肝臓MDA値の抑制など肝臓保護作用が確認された。また、CCl44曝露前にお茶を投与しなかったマウスと比較して、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX)およびSOD活性が上昇した。
また、CCl4誘発肝線維症ラットにおける3種類の茶カテキン(ECG、EGC、EGCG)の潜在的な抗線維化作用とその分子メカニズムの解明を目的とした別の研究では、カテキン類は酸化状態パラメータおよび肝組織像を効果的に改善し、肝線維化(デスミン発現、α-平滑筋アクチン、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)、ERK1/2およびSmad1/2のリン酸化の減少)を緩和することがわかっている。
硫酸カドミウム(1Lあたり50mgのCdSO4)曝露ラットに緑茶ポリフェノール(400mg/kg体重)を30日間投与した研究では、血清ALTおよびASTが急低下し、肝構造が改善され、カドミウム誘発性肝脂肪症および肝細胞壊死が予防されることが示されている。
さらに、授乳期に緑茶エキスを摂取すると、出生前から成体まで高脂肪食に曝露されたラットの肝脂質蓄積が抑制されることもわかっている。
食事誘発性脂肪肝の予防における緑茶の肝保護効果がWistarラットとマウスを用いた研究で観察され、肝脂肪症の減少、高トリグリセリド血症および高血糖の減衰、インスリン抵抗性の改善が示されている。
CCl4曝露ラットを用いた研究では、EGCGが抗酸化作用(MDAレベルの低下とGSHの増加)、
抗炎症作用(炎症マーカー:TNF-α、NF-κB、IL-1β、TGFβの低下)および抗線維化作用(線維化マーカー(p-ERKおよびp-Smad1/2タンパク質)の発現低下を示した。
ヒト肝細胞(HL-7702)を用いたin vitro研究では、EGCGはCdinによる細胞生存率の低下とアポトーシスを逆転させた。おそらく活性酸素の消去と酸化還元ホメオスタシスの維持によるものと考えられている。
緑茶の抗酸化作用
お茶の抗酸化作用は、カテキン、ケルセチン、テアフラビン、テアルビジンなどのポリフェノール成分によるところが大きく、酸化酵素活性の阻害や微量元素のキレート化、活性酸素の消去、内因性の酵素的・非酵素的抗酸化活性の増強、一重項酸素を電子または水素原子を供与して中和する能力を通じて作用する。
緑茶と白茶は最も高い抗酸化力(総フェノール、フラボノイド、カフェイン含有量、鉄還元抗酸化力、DPPHラジカル消去能)を持つ。煎じ茶の抗酸化活性は抽出時間に依存し、緑茶の場合は15分である。
緑茶(1.5%水溶液)はCAT、SOD、GPX活性の増加することで、タモキシフェン誘発肝障害(45mg/kg/日)のラットにプラスの影響を与えることが証明されている。
また、鉛中毒ラットに緑茶エキスを4週間経口投与すると、肝臓の抗酸化パラメーターであるグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)とSODが有意に改善することも示されている。
あるin silicoおよびin vivoの研究では、緑茶がNrf2-Keap1タンパク質-タンパク質相互作用を破壊することでマウス肝臓におけるNrf2シグナル伝達経路を活性化できることを示し、緑茶の抗酸化作用を説明(EGCGが最も高活性)した。転写因子Nrf2は、プロモーターに抗酸化反応要素配列を含む遺伝子の発現を制御し、GST、NAD(P)Hキノンデヒドロゲナーゼ1、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、γ-グルタミルシステイン合成酵素(γ-GCS)などの酵素をコードしている。
緑茶の抗炎症作用
In vitro研究では、緑茶葉水抽出物の高フラボノイド含有量によって顕著な抗炎症作用があることが証明されている。緑茶由来フラボノール配糖体およびアグリコンは、マクロファージRAW 264.7マウスを用いたin vitro試験において、炎症関連遺伝子のmRNA発現を用量依存的に顕著に減少させている。
肥満糖尿病マウスに緑茶エキスを投与した研究では、可溶型細胞間接着分子-1(sICAM-1)の放出が減少し、緑茶の抗炎症作用が示された。
肥満女性を対象とした研究でも緑茶の抗炎症作用観察されている。その研究では、アディポネクチン活性の上昇と高感度CRP(hs-CRP)値の低下が認められ、同様に、肥満男性でも緑茶摂取によりIL-6とhs-CRP値が減少し、アディポネクチンが増加している。
炎症プロセスに対する茶ポリフェノールの影響には、炎症性サイトカイン合成、IFN-γ、TNF-α、NF-κB、ケモカインの細胞内での阻害や、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)、HO-1、アラキドン酸、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)、リポキシゲナーゼ(LOX)の調節が含まれる。
EGCGはNF-κBおよびMAPKの活性化を阻害し、IFNγ、TNF-α、IL-1βの発現を低下させて免疫関連遺伝子(TNF-α、MAPK、NOSなど)を刺激し、アポトーシスを抑制する。また、炎症性白血球の浸潤と炎症性IL-8を抑制するが示されている。
緑茶の抗肥満作用と抗糖尿病作用
緑茶にはノルアドレナリン産生を刺激し、交感神経系を活性化することで食欲を抑えて満腹感を誘発し、アドレナリン受容体の活性化による脂質代謝の促進やエネルギー消費量を増加させるさようがある。減量促進活性物質には、ポリフェノール、フラボノイド、カフェイン、カフェ酸、クロロゲン酸などが挙げられる。
抗糖尿病作用は、主にポリフェノール、カテキン(特にEGCG)、没食子酸、カフェイン、テアフラビン、多糖類によって示される。これらの化合物は、活性酸素レベルを低下させることによって血糖値を調節し、α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼ活性を阻害する。この阻害活性は化合物中のヒドロキシル基の量に依存的で、グルコース誘導性インスリン分泌を低下させる炎症性サイトカインの発現を調節する。
肥満糖尿病マウスを用いた研究では、緑茶エキスに抗糖尿病作用と抗脂肪生成作用(血清グルコース、コレステロール、トリアシルグリセロール、非エステル化脂肪酸、インスリン、アディポネクチン、可溶型細胞間接着分子-1の正常化)があることが示されている。
緑茶の腸内細菌叢への影響
緑茶に含まれるポリフェノールは小腸での生物学的利用能が低く、その吸収には腸内細菌叢、主にFlavonifractor plautii、Slackia equolifaciens、Slackia isoflavoniconvertens、Adlercreutzia equolifaciens、Eubacterium ramulus、Eggerthella lenta、Lactobacillus spp.、Bifidobacterium spp.が関与している。
ポリフェノールは、腸内細菌の増殖と代謝に影響を与えるといったプレバイオティクス効果を発揮することで腸管バリアの損傷を防ぎ、炎症性Tリンパ球と抗炎症性Tリンパ球の合成のバランスをとる。ヒトCaco-2細胞を用いたin vitro研究では、緑茶のポリフェノールがビフィドバクテリウム、ラクトバチルス、エンテロコッカス属の増殖を刺激することが示されている。
一方で、茶のカテキンはセレウス菌、カンピロバクター・ジェジュニ、クロストリジウム・パーフリンゲンス、大腸菌、ヘリシア菌の増殖を抑制し、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラおよびマイコバクテリウム属菌の細胞膜を障害することがわかっている。
また、ケンペロールは、TLR4/NF-κB経路の活性化を抑制することで腸管バリアの完全性を改善し、腸の炎症を抑制することでDILI危険因子である肥満関連ディスバイオシスに対抗する。
緑茶の過剰摂取の影響
緑茶の過剰摂取によって、EGCGが肝臓に有害な影響を及ぼす可能性を示唆する一部の研究者もいる。安全な摂取量はカテキン約250mgを含む1日2~3杯の緑茶と考えられているが、高用量カテキンが肝機能に悪影響を及ぼす可能性については確認されていない。
ラット研究では、アセトアミノフェン(パラセタモール)の過量投与(2g/kg、経口)の状況において、緑茶抽出物(8.5mg経口)の投与が肝機能に悪影響を及ぼすことが示されており、酸化ストレスおよびカスパーゼ3依存性アポトーシス経路によるAPAP誘発肝毒性を悪化させる可能性が高い。1ヵ月後、実験ラットで肝酵素値の上昇、肝細胞の壊死と変性、うっ血、出血、炎症、線維化が観察されている。
他のラット研究では、EGCGがミトコンドリア異常を悪化させることで肝毒性を誘発する可能性が指摘されている。EGCGはミトコンドリア膜の透過性が高まったときにのみ透過するのがその理由。
C57BL/6JマウスにEGCG(500~750mg/kg)を1日1回3日間胃投与したところ、肝臓の炎症、壊死、出血が認められ、肝臓ミトコンドリアのコピーの減少、呼吸鎖複合体IおよびIIIマーカー遺伝子、サーチュイン3、フォークヘッドボックスO3a、ペルオキシソームのmRNAレベルの減少を示した。
別のマウス研究では、EGCGが自身のバイオアベイラビリティを調節する可能性が示唆されている。EGCGを含む食事はEGCG高用量経口投与による毒性影響を軽減できることが示唆された(肝臓中のEGCG濃度を71%、血清中のEGCG濃度を57%減少させる)。この知見は、緑茶を含む栄養補助食品に対する肝毒性反応において、異なる研究間で観察されたばらつきを部分的に説明するものと考えられる。EGCGは用量および生物学的システムに応じて、抗酸化剤として作用するか、一方で酸化促進作用、または他の未確認のメカニズムを通じて抗酸化防御の誘導剤として作用する可能性がある。
個人的に、緑茶カテキンは日々摂取する栄養素の中でも重要な栄養素として位置付けているので、緑茶成分の二面性を理解するためにもう少し深掘りしてみようと思う。
興味深いデータが見つかり次第こちらで紹介するので、その際はまたお付き合いください。