現在、欧米諸国では夫婦の15〜25%が不妊症でお悩みだという。
そのうち約40〜50%の症例は男性側の要因によるもので、先天的な問題に加え、過体重・肥満、糖尿病、インスリン抵抗性、動脈硬化、高血圧などの疾患や、喫煙、アルコール乱用、運動不足などの不健康な生活習慣が生殖機能に悪影響を及ぼしている。
近年では、不健康な食生活と男性不妊症の関係に対する認識も高まっている。
私が見聞きしてきた範囲でも、男性不妊でお悩みの方はラーメンやファストフードを摂取する頻度が高く、精液の質に有益な影響を及ぼす食品(魚、魚介類、鶏肉、全粒穀物、果物、野菜、低脂肪乳製品)の摂取は少ない。そして慢性的に運動不足の方が多い。
近年の研究では、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸摂取量が少なく、オメガ3脂肪酸、抗酸化分子、ビタミン、各種ポリフェノール、カロテノイドなどの栄養素を十分に摂取していることが生殖機能の健康と関連し、精子の質の向上と正の相関関係があることが示されている。
欧米食における糖分や脂肪分を多く含む超加工食品の大量摂取、ひいては過剰なカロリー摂取による肥満は、高インスリン血症や高血糖といったインスリン抵抗性を引き起こすことで精子のグルコース代謝・解糖系障害を誘発し、酸化ストレスを増加させる。
また、肥満患者では高インスリン血症に加えて、高レプチン血症が観察される。
このホルモンは代謝異常患者の精液中に高濃度で存在し、精子の質および生殖機能障害と関連している。
地中海食(MD)は欧米食とは対照的に季節の新鮮な果物や野菜、穀類、ナッツ類、豆類を多く摂取し、魚やワインを適度に摂取し、乳製品や肉類の摂取が非常に少なく、オリーブオイルを主な脂肪源とし、食物繊維、一価不飽和脂肪酸、抗酸化物質が豊富で飽和脂肪酸が少ない。
旬の果物や野菜には抗酸化物質や抗炎症分子が豊富に含まれており、これらは活性酸素(ROS)除去剤として、また遺伝子調節因子として作用することで酸化還元調節因子として働く。
それらの化合物は、精子パラメーターを改善し、DNAの断片化やクロマチンの完全性を改善し、精子濃度、精子運動率、精子生存率を増加させることが示唆されている。
多くの観察研究で、健康的な食品の摂取と精子パラメータの間に正の相関関係があることが報告されていることは非常に興味深い。
MDをより多く摂取することで生殖機能の健常性と精子パラメーターは用量依存的によ改善されるのだろうか?
リンクの研究は、精液分析を受けた大規模コホートにおけるMD遵守レベルと精子パラメータとの関係を調査したもの。男性300人(平均年齢34.6±9.1歳)の精液データについて横断研究を実施。MDアドヒアランス評価は、検証済みの14項目の地中海食アドヒアランス・スクリーナー(MEDAS)質問票を用いて行った。
結果
精子数、運動率、生存率、正常形態などの精子パラメータは、BMIや年齢とは独立してMEDASと有意かつ正の相関があることが示された。
MEDAS値で患者をグループ分けしたところ、MDをより遵守していることが、年齢、BMI、喫煙習慣とは無関係に、精子濃度、精子数、精子進行運動率、精液量、精子生存率、典型的な精子形態と正の相関があることが観察された。
MEDAS値対精液変化に関するROC曲線の適用では、「6.25」以下では精子パラメータの変化が起こりやすいスコア閾値であることが同定された。少なくともMEDASスコア6.26でMDを遵守すれば正常精子の確率が高くなる。MEDAS値が6.25より低い被験者はMDをより遵守している被験者と比較して少なくとも1つの精子パラメータの変化を有するOdds Ratioが高かった。
結論
MD遵守率が高い男性ほど精液の質が良いことを確認した。
逆に、MDアドヒアランスが低下すると精子の変質数が増加した。
この研究のサンプルでは、MD遵守度が高い被験者は遵守度が低い被験者と比較して精子の変質が起こる確率が約6倍低かった。
MDには精子の組成と機能に有用な化合物が豊富に含まれており、男性の生殖能力において生理的に好ましい役割を果たすことが示唆された。
対照的に、食生活の質の低下は必ずしも過体重でなくても精子パラメータの変化や男性不妊症と関連することが多いこともわかった。
Observational Cross-Sectional Study on Mediterranean Diet and Sperm Parameters
・地中海食の遵守度が精子パラメータと有意に相関し、年齢やBMI、喫煙、身体活動とは無関係に精子パラメータの変化を予測するという証拠を提供した。
・高カロリー食と体重増加は局所的な酸化ストレスを助長することによって男性の生殖機能に直接有害作用を及ぼす可能性がある。過体重や肥満は視床下部-下垂体-性腺軸に悪影響を及ぼし、その結果生じる性腺機能低下症が精子形成とエネルギー代謝の両方に影響して悪循環に陥ることが確認されている。
・代謝的に不健康な正常体重の表現型(正常体重被験者の最大30%を占める)の場合、明確な双方向の負のクロストークがあまり明確でない「グレーゾーン」がかなり存在し、乏精子症が共通の特徴となっている。MDのような健康的な食事パターンを守ることは正常体重男性の代謝的に好ましくない表現型を予防するために有効な介入であると思われる。1299人の被験者を評価した研究では、MDまたはMDとほぼ重なるDietary Approaches to Stop Hypertension-dietの採用が代謝的に不健康な表現型を獲得するリスクをそれぞれ46%および47%低下させることが示されている。
・MDモデルは飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、一価不飽和脂肪酸およびオメガ3やオメガ6などの多価不飽和脂肪酸画分(PUFA)が低レベルであるおかげで、男性の生殖機能と正の関係があると考えられている。特にオメガ3/オメガ6の比率に関して、食事から十分な量と質の脂肪酸を供給することで最適な精子の成熟を達成することができる。食事からの脂肪酸は精子細胞膜の構成成分である。
・飽和脂肪酸とコレステロールに乏しく、PUFA比率の低い食事は精液の質を改善し、精子細胞膜の流動性を改善し、酸化ストレスを軽減し、ミトコンドリア機能を高めるようだ。
・大規模系統的レビューでも魚、鶏肉、穀類、野菜、果物を豊富に含み、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が少ない食事はいくつかの精子パラメータの改善と正の相関があることが判明。
・亜鉛、セレン、必須脂肪酸、葉酸、ビタミンB12は精子の成熟に重要。
・体重の状態、精子形成に関与する生理学的メカニズム(ホルモン調節および酸化還元バランス)の影響および副乳腺の生理機能は精子の質と強く関連している。これらすべての側面に共通するのは全身および精巣における慢性的な炎症促進状態であり、この複雑なネットワークは栄養によって調節できる可能性がある。
・前立腺肥大症(BPH)から癌に至るまで、様々な前立腺疾患に食習慣が関与していると考えられている。食事と特定の栄養素は前立腺の健康に好影響を与えて炎症プロセスを抑制し、その結果、精子パラメータに影響を与える可能性がある。リコピン、亜鉛、ビタミンD、フィトステロール、オメガ3脂肪酸は、症候性前立腺肥大症リスクを低下させる可能性がある。
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