近年、若年層やアスリートによるエナジードリンクの消費量が著しく増加しており、過剰摂取に伴う健康被害について懸念が広がっている。
エナジードリンクには大量のカフェイン、ブドウ糖果糖、様々な添加物、ガラナ、タウリン、L-カルニチンなどが含まれている。これらの合法的興奮剤は、覚醒度、注意力、エネルギーを高め、血圧、心拍数、呼吸を増加させる。
警戒心の薄い若年層はエネルギーレベルをすばやく高め、注意力を高め、学業やスポーツの成績を上げることに憧れ、エナジードリンクに引き寄せられている。
その一方で、エナジードリンクの摂取による健康上の有害な結果によって救急外来を受診する若者が増加している。症例として、横紋筋融解症、急性腎障害(AKI)、心室細動、痙攣、急性躁病、脳卒中などの重篤な疾患とともに、不安、胃腸障害、脱水、神経過敏、頻脈といった軽度障害に至るまで、広範な悪影響が報告されている。
最悪のケースでは、エナジードリンク摂取が死亡事故につながる例も報告されている。
エナジードリンク市場の台頭は1977年から2009年にかけて、子供や青少年のカフェイン摂取量を70%も増加させている。国民健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)のデータによると、10代の1日平均カフェイン摂取量は61mg。
各エナジードリンクのカフェイン含有量は缶やボトル1本あたり50~505mg、カフェイン濃度28mLあたり2.5~171mgと、各社大きく異なる。
下画像に示されているように、エナジードリンクは、タウリン、高麗人参、砂糖、ガラナなど多様な成分で構成されている。
特に、タウリンとグルコノラクトンがエナジードリンク効果をもたらす主成分であると思われる。
タウリンは心筋や骨格筋に豊富に含まれており、神経調節、細胞膜の安定化、細胞内カルシウム濃度の調節、抗不整脈活性など様々な生理機能に関与している。また、脳内にかなりの濃度で存在することから、神経保護と神経伝達促進において極めて重要な役割を担っていることがわかる。
タウリンはカフェインと併用されることで、集中力、反応時間、感情状態が強化されることから研究が活発に行われているが、認知作用に関する決定的な証拠はまだ得られていない。
グルコノラクトンは肝グルコース代謝産物であり、アスコルビン酸合成の前駆物質。
あるラット研究では、グルクロノラクトン、グルコース、グリコーゲン、その他の薬剤を直接腸に注入したところ水泳持久力が向上している。この結果から、ヒトにおいて同じ効果を出すのに相当するグルクロノラクトン摂取量は1~2gの範囲になる可能性があることが示唆されている。
グルクロノラクトン補給は、発がん物質や腫瘍促進物質に対する自然免疫を強化する可能性があり、解毒作用がこの結果に寄与している可能性がある。
エナジードリンクによく含まれるその他の成分としては、カルニチン、ガラナ、ビタミンB群がある。
カルニチンはエネルギー生産において極めて重要な役割を果たし、長鎖脂肪酸をミトコンドリアへ輸送して酸化させ、アデノシン三リン酸(ATP)のエネルギー生成に導く不可欠な補酵素として機能する。
ガラナ種子のカフェイン含有量はコーヒー豆を凌ぎ、エナジードリンク(ED)のカフェイン含有量と刺激特性を高める。
8種類のビタミンB群からなるビタミンB複合体は、適切な細胞機能、特にミトコンドリア活性とエネルギー産生に不可欠な補酵素として働く。よって、ビタミンB群がエネルギー消費量を増加させるのではないかという推測もある。
リンクのレビューは、エナジードリンクの急性または慢性的乱用がヒトの健康に及ぼす影響を分析したもの。
結果
特に心臓血管系と神経運動系への悪影響が有意に多いことが示された。この分析では9例の心停止が確認され、うち3例は致死的だった。
それらの病因はカフェインが主成分であるエナジードリンク固有の神経刺激特性に起因している。
ヒトで記録された影響と動物モデルの実験的研究を比較したところ結果は重複していた。
発見されたエビデンスと文献データに基づき、カフェインそのものよりもエナジードリンク摂取を厳しく制限することを提案している。
The Dark Side of Energy Drinks: A Comprehensive Review of Their Impact on the Human Body
心血管系への影響
心血管系への影響は致死的性質を持つ可能性があるため、エナジードリンクに含まれる物質の副作用の中で最も研究が進んでいる。エナジードリンクの多量摂取は急性の血行動態およびアドレナリン作動性と関連し、グルコースおよびノルエピネフリンレベルを上昇させる。現在までのところ、上室性不整脈や心室性不整脈、冠動脈攣縮、虚血・心筋梗塞、心房細動、失神、大動脈解離、心筋症、心停止、突然死などが健康な若年層で報告されている。
また、心血管系転帰のリスクは構造的または遺伝的心臓病の既往のある人で増加することが発見されている。
さらに、エナジードリンク摂取によって患者がそれまで気づいていなかった心臓病が診断されることもある。
カフェインは心臓に対して直接的な強心作用を示す。
習慣的なコーヒー摂取は末梢血管抵抗と血圧をわずかに上昇させる。収縮期血圧と拡張期血圧は、カフェイン100mgあたりそれぞれ0.8mmHgと0.5mmHg上昇する。過敏な人では、数杯のコーヒーの摂取で心不整脈を起こすことがあるが、ほとんどの人では高用量のコーヒーを非経口投与しても頻脈を起こすだけである。
カフェインの強心作用は、カフェイン、テオブロミン、テオフィリンを含むガラナの強心作用によって増強される。前述のように、これらの興奮剤を大量摂取したことによる心停止の症例が9例報告されている。主な誘発機序は、心室細動などの不整脈の発生、あるいはこれまで認識されていなかったチャネル異常の顕在化である。9例のうち6例は集中的な心肺蘇生を必要とし、その後数ヵ月間の経過観察では心臓に異常は認められなかったが、残りの3例は死亡した(突然の心停止、STEMI、心室細動)。
神経系への影響
エナジードリンクの摂取は、発作、脳血管障害、躁病など、中枢神経系に影響を及ぼす可能性がある。エナジードリンク成分はアドレナリン作動系を過剰に刺激し、高血糖、低カリウム血症、白血球増加、代謝性アシドーシスを引き起こす。また、カフェインの精神刺激作用は低用量で顕著である。
カフェインを摂取すると、左前頭部の活性化が右前頭部に比べて増加することがわかっている。これはドーパミン機能が疲労と関連し、カフェインによって疲労が軽減される可能性を示唆している。
500mg未満の用量では、覚醒度の上昇、思考と発話の速度の増加、疲労の減少、睡眠の減少がみられる。高用量では落ち着きのなさ、不安、不眠、震え、急性中毒の場合は抗てんかん薬に反応しない発作を引き起こす可能性もある。
非常に高用量のカフェイン摂取は発作の発生と関連している。動物モデルでは、カフェインの腹腔内投与により脳波に関連した痙攣が起こる。ヒトでは過剰摂取後に痙攣が起こることが報告されている。
エナジードリンクの摂取はてんかん既往歴のある患者、てんかん既往歴のない患者どちらにおいてもてんかん発作の発症と関連している。これはエナジードリンクのカフェイン含有量が高いためと考えられる。
カフェインは、海馬と前頭前皮質におけるアセチルコリンの抑制的制御を取り除きA1受容体を介するカリウムチャネルの開口を調節し、線条体の樹状突起棘ニューロンにおけるA2A受容体の発火速度を増加させることで神経伝達物質の放出を増加させる。また、カフェインはA2A受容体を遮断し、アデノシンのcAMPに対する刺激作用を低下させる。カフェインによるA2A受容体の遮断はcAMP-PKA経路の活性化を減少させ、グルタミン酸放出の増加、mGlu5メタボトロピック受容体の活性化、エンドカンナビノイド放出をもたらす。
線条体におけるアデノシンA2A受容体の遮断はカフェインの精神作用と関連している。また、アデノシンA2A受容体の特定の遺伝子多型が、ヒトの習慣的なカフェイン摂取に影響するという証拠もある。
あるレビューでは、エナジードリンクの急性的な気分への影響は肯定的であるように見えるが、慢性摂取はストレス、不安、抑うつと関連していると結論づけられている。
胃腸および腎臓系への影響
エナジードリンクの摂取は胃腸障害や腎障害の発症にもつながる。
また急性肝炎、急性膵炎、急性腎障害(AKI)を伴う腎不全の症例も示されている。
全てのエナジードリンクにはカフェイン、タウリン、糖分、ビタミンが大量に含まれている。
ビタミンB3(ナイアシン)の大量摂取は肝毒性と関連し、ナイアシンの肝毒性は用量依存的で直接的な毒性反応であると考えられている。肝毒性は軽度の肝酵素(ALT/AST)上昇、肝脂肪症、肝壊死、まれに肝不全として現れる。文献で報告されている肝毒性を引き起こすビタミンB3の最低用量は1g/日。
AKIの主な原因はタウリンである可能性が高く、タウリンはスポーツ選手がパフォーマンスを向上のために使用している。
8週間のエナジードリンク摂取が女性の生殖器系に及ぼす影響を調査した研究では、卵巣予備能と抗ミュラー管ホルモン濃度に有意な低下が見られた。
思春期の雄ラットを対象に28日間連続エナジードリンク摂取後の精巣組織に対する生化学的影響に注目した研究では、天然・人工にかかわらず、エナジードリンクの摂取はライディッヒ細胞におけるテストステロンのステロイド生成の低下、ゴナドトロピン合成の変化、精子のホメオスタシスの破壊など、雄の生殖機能に悪影響を及ぼすことが示された。
カフェインベースのエナジードリンクへの周産期暴露が、新生児マウスの肝臓、腎臓、脳、運動活性、不安に及ぼす影響について分析した研究では、妊娠マウスが妊娠初日から出生15日後まで、2.5mLまたは5mLのエナジードリンクを摂取すると、出生後21日目と35日目に、新生マウスの肝臓、腎臓、脳、小脳、延髄において脂質過酸化(MDA)の有意な増加と抗酸化防御能の低下が観察された。
また、肝細胞の空胞化と脂質浸潤、腎皮質における糸球体変性と間質空間の拡張、大脳および髄質神経細胞のピクノーシスと分解、小脳におけるプルキンエ細胞の変性と異常など、多様な組織学的変化を誘発することがわかった。
さらに、エナジードリンクは新生マウスの運動量を増加させ、不安様行動を誘発した。
また、ラットにカフェインベースのエナジードリンクを長期経口投与すると、赤血球の膜粘度が上昇する(流動性が低下する)ことが示された。
まとめ
このレビューにはエナジードリンク含有物質の急性および慢性乱用による致命的影響の可能性に関する多くの研究結果が含まれている。
悪影響には、不整脈、神経学的および行動学的変化、急性臓器炎症(肝臓、胃、膵臓、腎臓)、さらには皮膚炎や自己免疫疾患の症例が含まれる。
エナジードリンク消費に正確な制限を導入することを検討することが重要と考えられ、まず安全なカフェイン摂取量の上限を検討する必要がある。ほとんどのエナジードリンク缶(250mL)には50~150mgのカフェインが含まれているが、成人に対する安全摂取上限量は1日あたり400mg(体重70kgの成人で1日あたり約5.7mg/kgbw)までで、1回の摂取量は200mgを超えてはいけない。このレベルの習慣的なカフェイン摂取では、急性毒性、骨の状態、心臓血管の健康、発がんリスク、男性の生殖能力に関する健康上の懸念は指摘されていない。
FDA(米国食品医薬品局)は、約1200mgのカフェインを急激に摂取した場合、痙攣などの毒性作用が現れる可能性があるとしている。
妊娠中または授乳中女性は、カフェインの安全な1日摂取量が400mgから200mgに半減する。
子どもや青少年について、EFSAもFDAも安全な限度を示していないことを強調しておく。
アメリカ小児科学会がさらに強調しているように、行動障害に長期的に悪影響を及ぼす可能性があるためエナジードリンク含有物質は完全に避けるべきであることを示唆している。
エナジードリンクは合法物質ではあるが、その長期的な影響はまだわかっておらず、精神疾患や心臓障害の悪化につながる可能性があるため、未成年者への販売や消費は規制されるべきである。