コロナパンデミック以降、産後うつの有病率が増加しているという。
産後うつの一般的な症状は、抑うつ気分、睡眠の質の低下、エネルギー低下、罪悪感、イライラする傾向、不安、自殺願望などで、それらの症状は母親と新生児のつながりや相互関係を大きく乱し、出産後最初の数日間でさえ母乳育児を中断することで子どもの成長障害や認知や行動の機能不全を引き起こすケースもある。
近年、食習慣と心理・感情的行動との相互関係を探る研究が行われており、食事パターンや特定の食材が産後うつ症状における補完的治療薬として研究され、世界中の研究者の関心を集めている。
ジャンクフードやファーストフード、肉類を多く摂取するような炎症性食習慣をとらず、野菜や果物を摂取する健康的な食習慣を身につけることで、うつ症状が軽減する可能性があることがいくつかの研究で報告されている。
栄養素としては、葉酸、ビタミンB6、B12、多価不飽和脂肪酸、亜鉛、セレン、マグネシウムといったいくつかの食品の成分が、抑うつ症状の発症確率を低下させる可能性があることも示されている。
高齢者を対象としたシステマティック・レビューでは、地中海食(MD)はうつ病発症リスクを低下させ、うつ病症状を改善することが示されている。これは、炎症や酸化ストレスに対する有益な効果によるものである。
一方で、欧米食的な栄養習慣は青年期のうつ病発症リスクを高め、うつ症状の強度を増加させる。
欧米食的な栄養習慣とは対照的に、MDのような抗炎症・抗酸化食はうつ病のリスクを減らす可能性がある。
MDは抗炎症・抗酸化成分が豊富な植物ベース食であり、野菜、果物、穀類、ナッツ類、エクストラバージンオリーブオイルを多量に含み、乳製品、魚介類、鶏肉の摂取は控えめで、飽和脂肪酸と赤身肉加工品の摂取は少ない。
様々な研究から、MDは心血管疾患、代謝異常、神経変性疾患、癌といった疾患のリスクを下げることが報告されている。
現在までのところ、母親の食事や生活習慣の因子と産後うつ病の有病率との関連についての調査数は少ない。
産後うつに対するMDの影響を評価した研究はさらに少なく、産後うつと社会人口統計学的・身体計測学的パラメーターおよびライフスタイル要因との関連を調査した研究はごくわずかしかない。
リンクのデータは、産褥期の女性3941人を対象に産後うつと母親の社会人口統計学的・身体計測学的特性、周産期の転帰、母乳育児の実践、地中海食(MD)の遵守との関連性を明らかにすることを目的としたもの。
結果
産後うつは、多胎および産後過体重・肥満の有病率の高さ、帝王切開および母乳育児の未実施率の高さ、MDアドヒアランスの低さ、教育レベルの低さと有意に関連していた。
・産後うつ病は出産後数ヵ月に最も多くみられる疾患と認識されており、未治療の産後うつ病は母子ともに長期的に悪影響を及ぼすことが示されている。
・栄養習慣が(一般集団における)うつ病の発症と進行、うつ症状の強さに決定的な影響を及ぼすことが多くのエビデンスによって証明されている。
・分娩後数ヵ月間は母乳育児に対する要求が高まることで栄養必要量が増加し、栄養欠乏しやすい期間となることでうつ病リスクが高まる可能性がある。さらに、親としての新たな役割と責任に関連した感情的、行動的、認知的再適応を含む身体的および精神的変化が母親に影響を及ぼし、食習慣と気分・行動の両方に悪影響を及ぼす可能性がある。
・不十分な栄養状態の母親や出産前医療を受けなかった母親、喫煙者やアルコール使用者の母親は、心理的苦痛を発症するリスクが高い。
・産後数カ月間の健康的な栄養習慣の遵守率が高いほど、産後うつ病の確率が低下することが多くの研究で示されている。例えば、エスニックブレッド、豆類、全乳、インドハーブ・種子ハーブ、バター・ギーなどを含む “Traditional-Indian-Confinement “食は産後3ヶ月の抑うつ症状を軽減する食事パターンであることがわかっている。また、この栄養パターンに類似した “スープ-野菜-果物 “食の遵守率が高いほど、抑うつ症状有病率が低いという相関傾向も示されている。
・ビタミンB群、ビタミンD、オメガ3PUFAs、ヨウ素、鉄、亜鉛、セレンの摂取について、平均値、範囲、1日推奨摂取量の割合を評価した研究では、セレン摂取が産後12週でうつ病に対してプラスの影響を与えることが示された。
他の臨床研究では、マルチビタミンの摂取、魚介類とPUFAsの摂取、カルシウム、亜鉛、およびセレン摂取を組み合わせた健康的栄養パターンが有益な効果をもたらすことが明らかにされている。
・妊娠期間中に魚油中のドコサヘキサエン酸(DHA)の摂取が産後うつの有病率を減少させたことを示した研究がいくつかある。日本の研究では、DHAとエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取だけでなく、魚介類全般の摂取が健康に有益な影響を及ぼす可能性が示されている。
・総脂肪および飽和脂肪摂取量の増加は、うつ症状発症の有害な危険因子である。
・妊娠中のMDアドヒアランスレベルの高さは、うつ症状レベルの低さおよび産後うつ発症リスクの低さと関連している可能性が高い。先行研究では、MD遵守レベルが高いほど産後うつリスクが2倍以上低いことが強調されている。
・母乳のみで乳児を育てた母親は母乳で乳児を育てたことがない母親に比べ、産後うつになる可能性が53%減少したことが報告されている。また、母乳のみで乳児を育てた母親は、部分的にしか母乳を与えなかった母親よりも出産後に抑うつ症状を発症する確率が8%減少してる。
・低所得、過体重、肥満の妊婦を対象にストレス、脂肪摂取、果物・野菜摂取の睡眠と抑うつの調節的役割について妊娠期間別に検討した大規模な臨床研究では、ストレスが妊娠中のうつ病に関係している可能性を支持している。妊娠期間によっては、夜間の睡眠障害、睡眠の質、睡眠潜時がうつ病と関連する可能性がある。