多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、無排卵、高アンドロゲン血症および/または多嚢胞性卵巣に加えて、高インスリン血症、インスリン抵抗性(IR)および肥満を特徴とする。
PCOS女性群では腹部肥満が特に多いことが観察されている。
35研究のメタ解析から、PCOS女性はPCOSでない女性と比較して中心性肥満有病率が高いことが明らかになっている。脂肪組織の中心部への蓄積は、正常体重、過体重、肥満のいずれのPCOS女性においても特徴的で、BMIに関係なく疾患と関連していることが判明している。
IRはPCOSの最も本質的特徴の一つで、PCOS症例の80%に影響を及ぼす。
PCOS女性におけるIRの早期診断と管理は、代謝およびホルモン合併症を予防するための最も重要である。
腹部肥満は、体脂肪の総量とは無関係にPCOS女性において特に高インスリン血症とIRを促進する。内臓脂肪組織は皮下脂肪組織よりもPCOS女性の代謝障害やホルモン障害に強く関係していると考えられる。内臓脂肪はPCOS女性においてインスリンシグナル障害を引き起こし、脂肪分解を増加させ、IRを促進すると考えられている。
さらに、過剰な腹部脂肪組織は低悪性度の慢性炎症と関連しており、この内分泌異常症におけるIRの病因の一つになっている。
PCOS治療に関する最近の勧告では、体重コントロールにおける生活習慣への介入の重要性が強調されている。その理由として、PCOSの経過では体重の5%減少が代謝およびホルモンの改善と関連することが証明されたことが挙げられる。
不適切な食事と身体活動パターンは、PCOS女性の肥満とIR発症に関与する重要な環境因子であり、脂肪組織の中心性沈着を含む体組成に大きく影響する。
リンクの研究は、PCOSでのIRの病態における中心性腹部肥満の役割を考察するために、腹部脂肪率(VAT(内臓脂肪組織)、SAT(皮下脂肪組織)、VAT/SAT比(内臓脂肪と皮下脂肪の比率)で測定)とWHR(ウエスト-ヒップ比)の関係を評価し、PCOS女性におけるIR(インスリン抵抗性の恒常性モデル評価(HOMA-IR)、恒常性モデル評価-アディポネクチン(HOMA-AD)およびレプチン-アディポネクチン比(L/A比)によって測定)の有病率とオッズ比を調べたもの。
さらに、それらの腹部肥満指標と食事および身体活動との関連を検討している。
結果
VAT、VAT/SAT、WHRの値が高い女性では、それらの腹部肥満指標が正常値の女性と比較してIR有病率が高いことが観察された。
さVAT/SATは、HOMA-IRおよびHOMA-ADで測定されるIRの最良の予測因子であるようだった。また、VATはL/A比によって測定されるIRの最良かつ最強の予測因子であるようだった。
IRで推奨される食事順守率が高く、活発な身体活動レベルが高いほど中心性脂肪蓄積指標の値が低く、正常値になる可能性が高いことも観察された。
この知見は中心性肥満がIR有病率を増加させ、PCOS女性の腹部肥満の管理における食事と身体活動の有益な役割を支持することを示している。
・PCOS女性はBMIが一致した健康な女性と比較して、体脂肪が中心部に蓄積しやすいことが広く認められている。腹部肥満は腹部の内臓部分だけでなく皮下部分にも分布し、PCOS女性の50〜60%に認められる。この結果は47研究のシステマティックレビューとメタ解析によって確認された。
・VAT、SAT、VAT/SAT、WHRが高いPCOS女性は、腹部肥満指標が正常値の女性と比較して、血清中空腹時インスリン値とHOMA-IR値が有意に高いことが明らかになった。また、IRの他の指標(HOMA-ADとL/A比)もPCOSと腹部肥満女性で高いことが観察された。
さらに、IRを有する女性はIRを有さない女性とは対照的に腹部脂肪蓄積量が有意に高いことが示された。
・腹部肥満(VAT、VAT/SAT、WHRで評価)女性では、3つの指標すべてでIR有病率が高いことも明らかになった。興味深いことに、皮下脂肪組織の場合にはそのような関係は観察されなかった。SATが高いPCOS女性ではIRの有病率が低いことが観察された。
・VAT/SATはHOMA-IRおよびHOMA-ADによるIRの最良の予測因子であることが明らかになった。VATは、L/A比によって測定されるIRの最良かつ最強の予測因子のようだ。
さらに、HOMA-IRとは別にSATの増加もIR高オッズと関連していた。
・PCOS女性におけるIR(HOMA-ADとL/A比によって測定)のオッズとSAT蓄積の間の関連は弱かったが、影響力があることは示された。SATは、VAT、VAT/SAT、WHRに比べ、PCOS女性における代謝変化との関連性は低いが、それでも代謝的に活性な腹部脂肪組織コンパートメントであり、見過ごすことはできない。
・VATとSATには構造的、機能的、予後的に多くの違いがある。VATはより代謝活性が高く、より大きな脂肪分解活性を示すことから、SATよりもIR、T2DM(2型糖尿病)、その他の代謝異常の病因とより強く関連している。
・VATとSATでは代謝活性の高いアディポカインの分泌が異なる。SATではレプチンとアディポネクチンが多く分泌されるのに対し、VATではレジスチン、ビスファチン、インターロイキン-6、インターロイキン-8、プラスミノーゲン活性化因子インヒビター-1がよりも多く分泌される。
・アディポネクチンはインスリン感受性を調節する最も重要なアディポカインの一つで、その濃度はHOMA-IRと負の相関があり、抗炎症作用、抗腫瘍作用、心保護作用を示す。
PCOS女性では体脂肪率の増加とともにアディポネクチン濃度が低下することがわかっている。肥満、特に内臓脂肪型肥満はアディポネクチン受容体の発現レベルを低下させ、そのポストレセプターシグナル伝達を減少させることが知られている。
・レプチンとレジスチンはインスリン感受性に関与するアディポカインで、高レプチンとレジスチンの増加は肥満と関連し、グルコース代謝障害とIRを引き起こす。腹部肥満のPCOS女性はアディポネクチン濃度が低いが、レプチンとレジスチン濃度は高いという特徴があった。レプチンとレジスチンレベルは腹部肥満と強い相関があり、PCOS女性の腹部脂肪率が増加するとそれらの分泌が上昇すると考えられる。
・PCOSの肥満管理における食事と身体活動の重要性は強調されるべきである。この内分泌疾患を有する女性の体重管理戦略において、生活習慣の改善が第一選択の治療要素として推奨されている。食物繊維は腹部脂肪率と逆相関するのに対し、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸は正の相関を示すという特徴が明らかになっている。PCOS女性では質の悪い食事が過体重や肥満、また腹部肥満(WCで測定)と関連していると報告されている。
・身体活動は中心性肥満における体脂肪の蓄積に有益な影響を及ぼす。座りがちな生活習慣がVAT蓄積と関連するのに対し、立位時間はVATと逆相関することが示されている。身体活動レベルが高いほどVAT量、SAT量、VAT/SAT比、WHRが低いことは注目に値する。
さらに、身体活動レベルが高いほどVATおよびVAT/SAT値が正常である確率が高い(SATおよびWHRとは関係なし)。
・腹部肥満の女性は、非腹部肥満の女性よりも活発な身体活動量が有意に低いという特徴がある。