ビタミンDはカルシウムと骨代謝の内分泌調節という役割以外に、妊娠中の母体と胎児の両者に対して幅広い治療的可能性を持っており、体内のビタミンD濃度が低いと妊娠転帰に悪影響を及ぼす可能性がある。
妊娠中の母親のビタミンD欠乏は子癇前症、早産、インスリン抵抗性、細菌性膣炎、妊娠糖尿病、骨軟化症、筋力低下リスクと関連し、母体の免疫機能障害リスクも増加する。
新生児においては低出生体重児、早産、骨や歯の発育への悪影響、感染症リスクの増加、中枢神経系の発達への影響などが報告されている。
今のところ妊娠中のビタミンD欠乏症の鑑別に用いられる25(OH)D値の基準値に関する世界的コンセンサスは得られていないが、米国医学研究所(IOM)では20〜50ng/mL、米国内分泌学会では30ng/mLとされている。
他の研究では、特に免疫系に対してより広範な効果をもたらす40ng/mLまたは50ng/mLという基準値が提案されている。
母親のビタミンD欠乏症は世界中の妊婦でよく観察され、特に寒冷な北緯地方に住んでいたり、日焼け防止用の衣服を着用していたりして日光に当たる機会が限られている女性に多い。
最適な25(OH)D血清濃度を維持するためには、食物および/またはサプリメントからのビタミンD摂取と、皮膚でのビタミンD合成のために日光浴が必要。
ビタミンD濃度は、もう1つのカルシウム恒常性調節因子である副甲状腺ホルモン(PTH)濃度と密接に関連している。ビタミンD濃度が低下するとカルシウム吸収も低下し、PTH分泌の増加が誘発される。
しかし、妊娠中のPTHとビタミンDの至適濃度は十分に確立されていないため、PTHが抑制される25(OH)Dの閾値はまだ議論中である。
リンクの研究は、食品およびサプリメントからのビタミンD摂取量、血清ビタミンD値、PTH値、生活習慣因子を評価することで妊婦のビタミンD状態を調査することを目的としたもの。
735人(妊娠中145人、産後7日目まで590人)を対象にラトビアで行われた。
血清ビタミンD濃度の中央値は34.0ng/mLで、妊婦の方が産後女性(31.8ng/mL)よりも高値(42.9ng/mL)だった。
ビタミンD血清濃度と食事からのビタミンD摂取量との間に関連はみられなかったが、ビタミンDサプリメントの使用との間には有意な相関がみられた。
最適な血清ビタミンD濃度(>45ng/mL)を有する妊婦は少数派(21.9%)であり、食事はビタミンD濃度に有意な影響を及ぼさないことが示された。
Vitamin D Intake and Serum Levels in Pregnant and Postpartum Women
・この研究では、血清ビタミンD濃度の中央値は34.0ng/mLで、最適な血清ビタミンD濃度(>45ng/mL)を有する参加者は少数派(21%)だった。
・妊娠中および産後女性の食事からのビタミンD摂取量はそれぞれ2.5mcg/日(100IU)および2.0mcg/日(80IU)だった。注目すべきは、ビタミンD補充が最適なビタミンDレベルを維持するための重要な要因だったことである。
サプリメントによるビタミンD摂取量は両群とも62.5mcgで、血清25(OH)Dの中央値は妊婦を対象としたヨーロッパの研究でみられた中央値(28.0ng/mL)よりもわずかに高く、スウェーデンの研究でみられた中央値(19ng/mL)よりも有意に高かった。この違いは、研究が行われたCOVID-19パンデミック期間中に、ビタミンDが妊婦の感染症や合併症に対して予防的な役割を果たす可能性があるという証拠によりビタミンD補充に対する関心が高まったためと考えられる。
・ビタミンD欠乏症は世界中の妊婦に広がっている。各国のガイドラインでは最適な血清ビタミンD濃度を20〜50ng/mL程度とし、1日当たりのビタミンD補給量を400IUから4000IUまでと推奨している。
・主なビタミンD食事源は魚、卵、乳製品だった。食事だけで十分なビタミンDを摂取するのは難しいというのが一般的な認識である。食事からのビタミンD摂取だけでは血清中ビタミンDが最適レベルにならない。
・この研究参加者の大部分は妊娠中にビタミンDサプリメントを摂取していた。妊婦の血清ビタミンD濃度は産後女性(31.8ng/mL)よりも高かった(42.9ng/mL)。これはビタミンDサプリメントを使用している妊婦が産後女性よりも多く、妊婦の高学歴と関連しているという所見によって説明される。
・世界保健機関(WHO)は200IU/日からサプリメントによる摂取を推奨している。ラトビア保健省の妊娠中のビタミンD推奨摂取量は1日400IUである。
実際にはより多くのビタミンD(1000~4000IU/日)を摂取することで妊娠中の血清レベルを最適に保つことができるとする最近の研究に基づき、医療専門家によってより高用量が推奨されている。
まとめ
妊娠中および産後女性にビタミンD不足の有病率がかなり認められ、血清ビタミンD濃度が最適(>45ng/mL)であったのは少数派だった。
食事やマルチビタミンの使用はビタミンD濃度に影響を及ぼさなかった。
ビタミンDサプリメントの摂取のみが至適ビタミンD濃度の維持に関与していた。
ビタミンDサプリメントの使用者は高学歴女性に多く、喫煙率は低かった。
(北東ヨーロッパの妊婦において)提案されている妊娠中のビタミンD摂取の推奨量は年間通して63mcg(2500IU)と考えられる。