”ビスフェノール(BP)”は人工物質の一種で内分泌かく乱物質として知られ、ビスフェノールA(BPA)の代替物質にも内分泌かく乱作用があることを示す研究が増えている。
近年、女性のビスフェノールA(BPA)および代替物質への暴露が増加傾向にあり、お隣中国では女性の血清検体から10種類のBPsが検出されたことが報告されている。
韓国とスウェーデンでは妊婦の尿検体からBPA、ビスフェノールF(BPF)、ビスフェノールS(BPS)が高率で検出されたことが報告されている。
人工化学物質への暴露は、化学物質への感受性が弱い時期である妊娠中や小児期においてより有害な影響を及ぼす可能性がある。
近年、妊娠中のBP曝露による健康への影響は懸念されており、中でも胎児の成長、脳の発達、代謝に重要な働きをする甲状腺ホルモンへの影響が懸念されている。
甲状腺ホルモンはヨウ素を重要な成分とし、甲状腺疾患の発症リスクはヨウ素の過剰と欠乏の両方によって高まる。
妊娠中のヨウ素栄養状態は甲状腺ホルモンに対するBPs曝露の影響を修飾する可能性があるが、ヨード栄養状態を考慮した上で妊娠中の甲状腺に対するBPsの影響全体に焦点を当てた研究はほとんどない。
リンクの研究は、妊娠中の甲状腺に対するビスフェノール類とヨウ素曝露の複合影響について研究したもの。
上海コホート162人の妊婦を対象にビスフェノールA、ビスフェノールB(BPB)、ビスフェノールC(BPC)、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAF(BPAF)の尿中濃度を調査。
ベイズカーネル機械回帰(BKMR)および分位g計算モデルが用いられた。
尿中のBPA、BPB、BPC、BPF、BPS、BPAF、ΣBPs濃度の幾何平均は、それぞれ3.03、0.24、2.66、0.36、0.26、0.72、7.55μg/g・Crだった。
血清トリヨードサイロニン(FT3)と遊離サイロキシン(FT4)に対するBPsとヨウ素の累積効果には正の傾向が認められ、尿中ヨウ素濃度が低い女性ではBPsとサイロペルオキシダーゼ自己抗体陽性の発生確率との間にU字型の用量反応関係が認められた。
さらに、BPFとBPB、BPCとBPAFの間に甲状腺自己抗体陽性の発生率に対する相乗効果が観察された。
BPsとヨウ素への共曝露後、甲状腺の健康への悪影響が見られた。
BPs曝露がより低レベルだったとしたとしても、妊婦さんがヨウ素欠乏症だと甲状腺自己免疫疾患の発症確率が高いままだった。
The Joint Effects of Bisphenols and Iodine Exposure on Thyroid during Pregnancy
・FT4およびFT3に対する6種類のビスフェノール混合物の累積効果に正の傾向が示された。また低UIC女性においてBPsとTpoAbs陽性リスクとの間にU字型の用量反応関係が認められた。さらにBPFとBPB、BPCとBPAFの間に相乗効果が認められた。
・BPAは環境中に遍在し、ヒトは食事などを通じてBPに曝露する。BPAは90.36%の検体から検出され、妊婦の間で最もユビキタスなビスフェノールだった。その他のビスフェノール類も70%以上の検出率であり、チェコ、オランダの報告よりも高かった。
・BPsとヨウ素の共曝露は甲状腺に悪影響を及ぼす。BPsとヨウ素の混合濃度の増加は、血清FT4およびFT3濃度の増加と有意な相関を示した。
中国での研究では、高レベルのBPBとBPFへの暴露はヨウ素の状態に関係なく妊娠第2期のFT4濃度を上昇させる可能性があると報告されている。
・血清甲状腺ホルモンが高くなる一般的な原因は、TrAbsによる甲状腺刺激によるグレーブス病だった。今回、低UICの女性においてBPsとTpoAbs陽性リスクとの間にU字型の用量反応関係がみられた。これは、低レベルのBPs暴露でもヨード欠乏症女性は甲状腺自己免疫疾患に罹患しやすいことを意味している。
・ヨウ素の効果はBPsに影響されうるが、ヨウ素はBPs曝露による結果には影響しないということがわかった。BPsとヨウ素の混合暴露が甲状腺に及ぼす悪影響の背景には、未知の生物学的メカニズムがあると思われる。
・甲状腺ホルモン受容体(TR)の発現は、BPA、BPB、BPAFによってin vitroで有意に変化した。BPAFのみがTRの発現を有意に低下させ、BPs曝露後に逆U字型の用量効果と活性酸素種の変化が観察されたことから、酸化ストレスとホルモン受容体の障害が作用機序に関連している可能性がある。