今回はコーヒー及びカフェインと心房細動との関連性について興味深いデータをまとめてみたい。
コーヒーやエナジードリンクなど、カフェイン含有飲料のもつ潜在的な不整脈発症作用のメカニズムを知るのに役立てもらえたら幸いだ。
コーヒー及びカフェインと心房細動(AF)の関連性に焦点を当てた過去の研究結果は見解が一致しないものが多く、特に「性差」の影響に焦点を当てた研究は非常に少ない。
カフェインはコーヒー豆に含まれるアルカロイドであり、紅茶、エナジードリンク、チョコレート、ココア飲料などにも含まれ、含有量はコーヒーで通常4~180mg/150mL、紅茶は24~50mg/150mL、ココアは2~7mg/150mL、チョコレートは1~36mg/28mg。エナジードリンクは1杯あたり100~286mgのカフェインを含み、ブランドによっては550mg。
コーヒー1杯のカフェイン含有量は地域、調製方法によって異なる。
北欧とイギリスではコーヒー1杯に140mg、アメリカでは85mg、エスプレッソやモカが一般的な南欧では50mg程度。
2015年、欧州食品安全機関(ESFA)は「カフェインの安全性に関する科学的見解」を発表。200mg(体重70kgの成人で約3mg/kg体重)までのカフェインの単回摂取は安全性に問題がないことを示した。
また、通常の環境条件下で激しい運動を行う2時間前までに摂取すれば、同量の安全性に問題はないとしている。
また、約0.65g/kg体重までのアルコール摂取は200mgまでのカフェイン単回摂取の安全性に影響を与えないとしている。
しかし、コーヒーの習慣的摂取者と非習慣的摂取者では違いがあるかもしれない。
妊婦さんにおいては1日200mgまでのカフェインを習慣的に摂取しても安全性に問題はないとしている。
授乳中の方のカフェイン単回摂取量は200mgまでであれば乳児に対する安全性の懸念はないともしている。
小児や青少年について、安全なカフェイン摂取量を導き出すには現時点では科学的知見は揃っていない。エナジードリンクなどカフェインを含む清涼飲料水を摂取する習慣が若年層で急速に広まっておりさらなる研究が必要だろう。
リンクのレビューは、上記のテーマについて発表された論文データを調査し、科学的研究から明らかになった男女間の違いを分析したもの。
Sex Related Differences in the Complex Relationship between Coffee, Caffeine and Atrial Fibrillation
カフェイン
・カフェインの半減期は健康な成人では通常2.5~10時間。習慣的な摂取、長期のカフェイン摂取、大量のカフェイン摂取は半減期をさらに延長させる可能性がある。
カフェイン摂取後、血漿中濃度は摂取後30分ほどで上昇し始め、血漿中最高濃度は通常約2時間後に到達する。
・コーヒーの抽出方法はカフェイン量や最終的に飲料に含まれるカフェイン量に大きく影響する。抽出時間、水温、豆の種類、コーヒーと水の比率などの要因はすべてカフェイン含有量に影響する。
コーヒーのサブタイプと心血管アウトカムの発症との関連を評価したUK Biobankのデータ解析は、コーヒーのサブタイプをカフェインレス、挽き豆、インスタントと定義し、0、1未満、1、2~3、4~5、5杯/日以上に分類し、非飲用者と比較した。挽き豆およびインスタントコーヒーの摂取は、1日1~5杯で不整脈の有意な減少と関連したが、カフェインレスコーヒーを摂取する被験者ではこの所見は観察されなかった。最もリスクが低かったのは挽き豆コーヒーで4-5杯/日だった。全てのコーヒーのサブタイプは、非飲用者と比較して心血管疾患(CVD)発症率の低下と関連していた。
・カフェインの代謝の分析では、カフェインの95%以上がチトクロームP450 1A2(CYP1A2)によって代謝されることが明らかになり、CYP1A2遺伝子の一般的な多型であるrs762551変異体の多型の遺伝子型がACおよびCCの人は「緩徐代謝型」と呼ばれ、AA遺伝子型の人は「高速代謝型」と定義される。緩徐代謝者はCYP1A2酵素の活性が低下している可能性があり、その結果体内でのカフェインの分解が遅くなる。一方でAAの遺伝子型を持つ高速代謝型の人はCYP1A2酵素の活性が高く、カフェインの代謝が速い。
コーヒー摂取と高血圧、虚血性心疾患、空腹時血糖障害のリスクとの関連はこの多型によって用量依存的に変化する可能性がある。ある研究では、緩徐代謝型(ACまたはCC遺伝子型)は心筋梗塞や高血圧のリスク増加など、コーヒーの大量摂取による潜在的な悪影響に対してより敏感である可能性が示唆されている。
・カフェインの代謝効果に影響を与える遺伝的違いが男女間に存在する。男性の CYP1A2 量は女性より多いようだ。CYP1A2の発現は喫煙によって誘導される。
成人女性のグループのパンデミック中のコーヒー摂取量の変化を評価し、喫煙女性と非喫煙女性の変化を比較した最近の研究では、エスプレッソコーヒーに含まれるフェノール化合物の女性の体内での代謝は男性とは異なることがわかった。CYP2B6、CYP2A6、CYP3Aの活性は男性より女性の方が高いことが報告され、CYP2D6、CYP2E1、CYP1A2の活性は男性でやや高かった。この研究では、非喫煙女性と比較して喫煙者ではコーヒー摂取量が増加することが報告された。コーヒー摂取量の増加はエスプレッソからの抗酸化物質の摂取量を増加させ、喫煙による健康への悪影響を打ち消していると考えられる。
カフェインの作用
・カフェインはアデノシン受容体、特にA1およびA2Aサブタイプの拮抗薬として作用する。
これらの受容体を遮断することでリラックスと睡眠を促進する神経調節物質であるアデノシンの作用を阻害し、この拮抗作用がカフェインの興奮作用を誘発して覚醒を促し、疲労を軽減する。
・カフェインの心臓に対する刺激作用は心拍数と心収縮力の増加につながり、特定の状況では有益と考えられる。カフェインは心拍出量を増加させ、重要な臓器への血流を改善する。
カフェインは冠動脈の血管拡張を引き起こすことが報告されており、冠動脈の血流を改善し、冠動脈疾患のある人では有益である可能性がある。
・カフェインの過剰に摂取は悪い結果を招くこともあるので注意が必要。カフェインの脳血管収縮作用により脳への血流が減少する可能性がある。この作用は頭痛や片頭痛を和らげるのに有効な場合もあるが、脳への全体的な血流が悪くなると危険な場合もある。
コーヒーとカフェインが不整脈発症に及ぼす影響
・心房細動を含む不整脈の主な危険因子は、肥満、不健康な食事、運動不足、座りがちな生活、喫煙、アルコール乱用、高血圧。カフェイン摂取と心房細動との関連性を示唆した研究もあるが、現時点で有意な関連性は見いだされていない。
・カフェインはアデノシン受容体を一時的に遮断することから、心臓の電気刺激に影響を及ぼし、心臓リズムに影響を及ぼす可能性がある。心房細動の根本的なメカニズムや誘発因子はまだ完全には解明されていないが、アデノシンを介したシグナル伝達経路が心房細動発症に寄与している可能性が示唆されている。
・心房細動に対するカフェインの作用は、コーヒーを習慣的に飲む習慣のない人において神経ホルモン刺激と交感神経の活性化を介している可能性があり、カフェインがこの作用を増強する可能性が示唆される。
カフェイン中毒の場合、非常に高用量で上室性頻拍、心房細動、心室細動が起こることがある。
不整脈予防におけるコーヒーとカフェインの効果
・カフェインとコーヒーが不整脈の危険因子であるかどうかについてはまだ未解決だが、逆にいくつかの研究ではコーヒーの心血管リスクに対する予防効果が示唆されている。
また、定期的なコーヒー飲用は収縮期血圧、脈圧、大動脈血圧および大動脈脈圧の低下と関連することがわかっている。
・コーヒーの有益な効果は、抗酸化作用と抗炎症作用を持つ様々な物質の存在に起因している可能性がある。クロロゲン酸(CGA)は抗酸化作用で知られるポリフェノールの一種で、体内の酸化ストレスを軽減する役割を担っており、全身炎症と酸化ストレスを軽減する。
またCGAは内皮機能を改善し、一酸化窒素の生物学的利用能を増加させ、その結果コーヒーを習慣的に摂取する被験者の血圧を低下させる。
・カフェインとCGAは肝臓と脂肪組織でペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)を活性化する。PPARαは脂質代謝を制御する転写因子で、PPARαの活性化は脂肪酸の酸化を増加させて脂肪新生(新しい脂肪酸を合成する過程)を減少させる。
・フェルラ酸はコーヒーに含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化作用と抗炎症作用がある。フェルラ酸は穀類、果物、野菜にも含まれている。フェルラ酸は血小板凝集、血圧に影響を及ぼす一酸化窒素(NO)の利用能を改善し、血管拡張作用を示す。
・カフェストールとカフエオールは、LDLコレステロール(低比重リポタンパク質コレステロール)を上昇させることが知られている。初期の研究では、カフェストールはヒトの血漿中トリアシルグリセロールと低比重リポ蛋白(LDL)を効果的に増加させ、心血管疾患を誘発する潜在的なリスクである可能性が示唆されている。しかし、より広い視点から見るとカフェストールとカフエオールには二面性がある。血清脂質レベルや肝酵素に有害な影響を及ぼす一方で、抗炎症作用、抗血管新生作用、抗腫瘍作用を示すことが広範な研究で実証されている。
カフェストールとカフエオールのLDLコレステロール上昇作用は、フレンチプレスやエスプレッソなどペーパーフィルターを使用しない方法でコーヒーを調製した場合に観察される。
ペーパーフィルターはこれらの化合物を効果的に捕捉し、最終的なカップ中deの存在感を低下させる。ドリップ・コーヒーのようなフィルターを使ったコーヒーは、フィルターを使わないコーヒーに比べてコレステロール値への影響が小さくなる傾向がある。
コーヒーおよびカフェインと心房細動に関する臨床研究
・UK Biobankに登録された449,563人(55.3%が女性)の心血管疾患のなかった人を
平均12.5年追跡した研究では、挽いたコーヒーを4〜5杯/日、インスタントコーヒーを2〜3杯/日飲むと不整脈の発生が減少することがわかった。カフェインレスコーヒーを飲み慣れている患者ではこのような不整脈予防効果は観察されなかったことから、カフェインには催不整脈作用はないことが示唆された。
・心血管系疾患(CVD)発症リスクは、1日5杯までのコーヒーを習慣的に飲む被験者で減少し、すべてのコーヒーのサブタイプで差はなかった。
・Danish Diet, Cancer and Health study(555人:男性373人、女性182人)でもカフェイン摂取に関連した心房細動や粗動リスクは認められなかった。
・Women Health studyでは33,638人の中年女性を対象に、カフェインの摂取量と心房細動の発症との関係を調査。カフェインを多量に摂取する女性における心房細動リスクの増加は認められなかった。
心房細動
・Physicians’ Health Studyでは男性集団を対象にコーヒー摂取と心房細動リスクとの関連を検討。1日1~3杯のコーヒーを摂取する男性では心房細動リスクが低いことが示唆された。
・1475人の参加者を12年間追跡調査した研究。カフェイン摂取源として最も多かったのはコーヒー(89.1%)で、次いで紅茶(10.2%)だった。喫煙者(1日1本以上)は15.5%。この研究ではCYP1A2多型にかかわらず、カフェイン摂取量が320mg/日を超えると心房細動リスクが有意に低下することが示された。
・400人の患者を対象とした研究では、心房細動の発症リスクは、急性ストレス、急性のコーヒー摂取量の増加、肥満と関連していた。急性ストレスはコーヒーや紅茶の消費量増加など、ライフスタイルや食習慣の変化につながる可能性がある。急性コーヒー消費量の増加は、非習慣的摂取者においてより顕著で、その結果心房細動発症リスクが高くなった。この場合、2つの誘因の複合的なアドレナリン作動性作用が一過性不整脈の出現を促進する可能性がある。ストレスや不安は不整脈発症の誘因であると同時に、食習慣や食生活を含む一連の生活習慣の変化を示している。習慣的にコーヒーを飲まない人では、カフェインが不整脈の引き金になることがあるようだ。