コロナ禍の影響でメタボリックシンドローム(MetS)と診断されショックを受けている人が増えているんじゃないだろうか。
MetSは心血管疾患(CVD)や2型糖尿病(T2D)の危険因子である。
MetS発症は運動や食事などの生活習慣の改善によって対処することが可能であり、特に食事の改善はCVDおよびMetS予防の極めて重要な戦略である。
植物性食品およびその生理活性物質とMetSリスク減少に相関関係があることが近年の研究で明らかになっているが、中でもベリー類(ブルーベリー、ビルベリー、クランベリー、ラズベリー、ストロベリーなど)のMetS予防効果が強調されている。
ベリー類には、ビタミン(ビタミンC、葉酸など)、ミネラル(カリウム、マンガンなど)、食物繊維、そして重要な(ポリ)フェノール類(フラボノイド、フェノール酸、縮合・加水分解性タンニン、スチルベノイド、リグナン)が含まれている。
ポリフェノールの中でもアントシアニン(ACN)はベリー類に含まれる生理活性ポリフェノールの中で最も大きな割合を占めており、可食部100gあたり100~200mgの範囲に含まれている。
ベリー類の摂取は、高脂血症、インスリン抵抗性、糖尿病、CVDのリスクや発症と逆相関することが確固たる疫学的証拠によって示されている。
最近の研究結果
・イチゴとブルーベリーを週に3回以上摂取する被験者は、1ヶ月に1回未満しか摂取しない被験者と比較して心筋梗塞リスクが減少する傾向(-34%)がある。
・ACNの習慣的な摂取量が多いほど(35mg~)インスリン値が改善される。
・ACNを多く含む食品を摂取した被験者の冠動脈性心疾患(CHD)リスクが9%低下。
・ベリー類からのものを含む高食事性ACN(200mg/日以上)は冠動脈性心疾患(CHD)、総CVD発症、総CVD死亡リスク低下と関連している。
・ベリー類はCVD患者の血管機能を改善し、動脈硬化を緩和する。
他方で、肥満度(BMI)、脂肪沈着、血圧、慢性低悪性度炎症に対するベリーの効果に関する研究結果はまだはっきりしていない。
リンクのレビューは、5つのMetSパラメータのうち少なくとも3つのパラメータを持つ被験者に対するベリー摂取の効果を調査したヒト介入研究から得られたデータを要約したもの。
2010年から2022年1までの合計17件のヒト介入試験を要約。
Berry Dietary Interventions in Metabolic Syndrome: New Insights
主な知見
ほとんどの試験(17試験中6試験)で、MetSの2つの要素であるトリグリセリド(TG)の低下と高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)の増加が報告された。
さらに、二型糖尿病(T2D)の第二のマーカーであり、健康上のアウトカムと負の相関を持つ低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)にも同様にプラス効果が認められた。
この効果は特にチョークベリーとブルーベリーが最も効果的だった。
他のMetSマーカーについては、相反する結果が観察されました。
炎症に関連するマーカーについても肯定的な結果が記録された。17研究のうち6件で、少なくとも1つ以上のサイトカインに改善が見られ、主にインターロイキン6(IL-6)と腫瘍壊死因子α(TNF-α)に関連するものだった。
酸化ストレスのマーカーについてもポジティブな効果を示す傾向が観察されたが、血管の健康マーカーについては証拠が見つからなかった。
ブルーベリー(BB)の効果
・MetS被験者45名を対象にエネルギー密度の高い食品(900kcal 500gミルクセーキ)と一緒に摂取したフリーズドライBB(26gは生のハイブッシュBB150gと同等)が食後の心代謝反応に及ぼす影響を調査した結果、食後のグルコースとインスリン反応、総コレステロール(TC)を減少させ、HDL-C、アポリポ蛋白AI(APO-A1)、特大・高密度リポ蛋白粒子数(XL-HDL-Pn)、大・高密度リポ蛋白粒子数(L-HDL-Pn)の増加を示した。血圧、FMD、脈波伝播速度(PWV)、AIX(Augmentation Index)には効果が見られなかった。
・過体重および/または肥満の患者5人グループにおいて、食後の高脂肪/高血糖負荷食とBBを強化した高脂肪/高血糖負荷食(150g)が代謝系反応に及ぼす効果を評価した結果、高脂肪・高グリセミック負荷の食事+BB摂取から2~4時間後に、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)発現量の増加とインターロイキン6(IL-6)の減少を観察した。さらに、T2Dの指標(メチルアミン、アセト酢酸、アセトン、コハク酸など)の減少が確認された。
また、プロアントシアニジンおよびプロシアニジンの腸内細菌による脱水素反応(p-ヒドロキシフェニル-酢酸および3-(3′-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロピオン酸)の蓄積が尿中に検出され、BBポリフェノールの代謝における腸内細菌叢の寄与が示唆された。
BBの中長期的な効果
・6ヶ月間の試験で、115人の被験者グループにおいてフリーズドライBB粉末1/2カップ(粉末13g、生のハイブッシュBB75g相当)または1カップ(粉末26g、生のBB150g相当)対プラセボの心代謝および血管マーカーに対する影響を試験た結果、プラセボと比較してBB摂取後のトリグリセリド(TG)値は有意に増加したが、脂質やグルコースプロファイル、血圧に関する他のマーカーには効果がなかった。血管機能に関して、1/2カップのBBを摂取した場合FMDと環状グアノシン一リン酸(cGMP)が有意に増加し、AIxが減少したことが報告された。
・6週間の試験において2種のハイブッシュBBがMetS被験者の免疫反応、炎症および酸化ストレス反応の調節に果たす役割を評価した(1日2回、356mLのヨーグルトと、22.5gのフリーズドライBBパウダーを加えて調製したスキムミルクベースのスムージー(1日合計45g)またはプラセボ(BBパウダーなしの同一のスムージー)結果、全血および単離単球の両方でフリーラジカルレベルが低下し、酸化ストレス軽減が確認された。さらに、TNF-α、Toll様受容体4(TLR4)、IL-6、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などの循環炎症マーカーの減少が観察された。一方で、骨髄性樹状細胞という免疫系の著しい増加が報告された。
・6週間の試験で、MetSを有する肥満被験者のグループにおいて血圧、内皮機能、およびインスリン感受性に対するBBスムージーの効果を調査した結果、プラセボと比較してBBを摂取した後に末梢動脈の緊張(血管機能マーカー)が改善したが、その他のパラメータ(体重と体組成、血圧、グルコースとインスリン、脂質濃度など)には変化がなかった。
・8週間の試験でMetSを有する肥満男女のグループにおいて、脂質過酸化と炎症に対するBBの影響を調べた(480mLの水に50gの粉末(新鮮なBB350gに相当)を混ぜたフリーズドライBB飲料を1杯(240 mL)は朝に、2杯目(240 mL)は夕方に摂取。BBは1624mgのフェノールと724mgのACNを供給)結果、収縮期および拡張期血圧、血漿酸化LDL(ox-LDL)、マロンジアルデヒド(MDA)、4-ヒドロキシノネナール(HNE)レベルが改善した。血圧は降圧薬を服用している参加者を除いてデータを分析した場合も有意差があった。
ビルベリー(BiB)の効果
・過体重または肥満のMetS被験者15人のグループでBiBを用いた8週間の試験(ビルベリー400g/日、200gのBiBピューレ(1048mgのACNと24mgのフラボノールを提供)と40gの乾燥BiB(332mgのACNと12mgのフラボノールを提供)の結果、BiB介入後、高感度CRP(hs-CRP)、IL-6、IL-12、リポポリサッカライド(LPS)、炎症スコアが低下することが確認された。
クランベリー(CB)の効果(中期・長期介入)
・MetSを伴う腹部肥満の被験者に4週間、朝に2箱、夕方に2箱のジュース(各125mL)を摂取(約400mgフェノール、296mgのプロアントシアニジン、21mgのACN)介入の結果、グローバルな内皮機能と動脈硬化を低下させたが、効果はプラセボと比較して有意ではなかった。
・MetS患者の代謝および炎症バイオマーカーに対する8週間のCBジュース介入効果(700mL/日のエネルギー低減型CBジュース(230mgのプロアントシアニジンと360mgのフェノール)を調査した結果、対照群と比較して血清アディポネクチンおよび葉酸レベル上昇をもたらし、血清ホモシステイン、脂質およびタンパク質酸化レベルを低下させた。
・MetS肥満女性グループにおいて、脂質過酸化、炎症、脂質異常症を減少させる低エネルギーCBジュースの8週間介入を評価(480mL/日のCBジュース、約450mgのフェノール、24mgのACN、240mgのプロアントシアニジンを供給)した結果、血漿中の酸化LDL、MDA、HNEの循環レベルを低下させ、同時に血漿中の総抗酸化能力を増加させた。
ラズベリー(RB)の効果(中期長期介入)
・51名のMetS患者を2群に分け、1群には黒いRB粉末を4カプセル/日、2群にはプラセボを投与(黒色RBカプセルは187.5mgの粉末(1日あたり750mg)、主にカテキン(371μg)とプロアントシアニジン(195μg)を含む)した結果、血清TNF-α、IL-6、ICAM、Aixが減少し、アディポネクチンおよび循環内皮前駆細胞の血清レベルが改善した
同じ研究者の他の研究でも、750mg/日のブラックRB摂取で、炎症と血管機能に関してIL-6とTNF-αはプラセボと比較して有意に減少し、抗炎症作用のあるアディポネクチンと上腕動脈FMDの値の有意な増加が観察されている。
ストロベリー(StrB)の効果
・MetSの成人における14週間の試験(プラセボ群、低用量群(StrB粉末13g/日)、高用量群(StrB粉末32g/日)総ポリフェノール含有量は、1食分と2.5食分あたりそれぞれ400mgと960mg、総ACN含有量はそれぞれ38mgと92mg)では、低用量および高用量のStrBどちらも血清抗酸化能とスーパーオキシドジスムターゼ活性を有意に増加させ、脂質過酸化、VCAM-1、TNF-αを減少させた。
チョークベリー(ChB)の効果
・MetS患者の臨床および生化学的パラメータに及ぼす影響を調査(4週間、431mgのポリフェノールと120mgのACNエキスを溶液の形で1日30mL摂取)した結果、T2D女性グループのみでTC値が2週間の介入後に有意に減少し、LDL-C値は非糖尿病女性グループのみで減少した。また、糖尿病女性グループのみでTGが4週間のサプリメント摂取で有意に減少した。
・MetS患者を対象に、血圧、血清エンドセリン、脂質、酸化ストレスマーカーに対するChBサプリメントの効果を評価した8週間の試験では、介入により血圧、エンドセリン-1の低下、脂質プロファイルの改善、酸化状態の改善が見られた。
ベリーミックスの効果
・MetS被験者グループにおけるベリーミックスが脂質プロファイル、腸内細菌叢組成、ウロリチン生成に及ぼす影響を検討した12週間の介入試験(300g/日の新鮮なベリー類(イチゴピューレー100g、冷凍ラズベリー100g、冷凍クラウドベリー100g、エラジタンニン約789mg、ACN70.7mg、フラボノール4.1mg)の結果、血圧、脂質プロファイル、8-イソプロスタン、血漿抗酸化能に有意な変化がみられた。
また、ベリーのエラギタンニンのバイオアベイラビリティが腸内細菌叢組成に厳密に依存していることが示唆された。
まとめ
脂質プロファイルのマーカーに対するベリーの役割として、TCおよびLDL-C、TGを減少させ、HDL-Cを増加させることが示されている。チョークベリーとブルーベリーが、TC、LDL-C、TGレベルを低下させることによりMetSの文脈における脂質プロファイルを改善することができるベリーであることを発見した。
ACN(ベリー類の主要な生理活性物質)を補給すると血中LDL-CとTGが有意に減少し、HDL-Cが増加することがわかった。
ベリー類とベリーバイオアクティブは、血圧に対して潜在的に有益な効果を発揮することもわかった。メカニズムとして、(1)一酸化窒素(NO)の産生を反映する内皮NO合成酵素(eNOS)の発現および活性の増加、(2)酸化ストレス、損傷およびペルオキシナイトライトへの変換からNOを保護、(3)アンジオテンシンII、エンドセリン1、トロンボキサンなどの血管収縮物質の合成阻害が挙げられる。
ベリー類全てというわけではなく、クランベリー、チョークベリーが高血圧被験者における血圧に間接的に影響するというより強いエビデンスが出てきた。
グルコース代謝の障害はMetSの併存疾患だが、ベリー類やベリー類ポリフェノールは、膵臓β細胞の保護、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)刺激、グルコースの消化・吸収・取り込みへの影響、グルコース/脂質代謝経路の活性化などの有益な効果を発揮するようだ。
GLP-1は胃の空洞化を遅らせ、中枢神経系に直接作用して満腹感を促進し、体重減少に寄与する。
MetSの重要な危険因子である肥満においては、肥満に関連する肝脂肪症、炎症、酸化ストレスを予防し、腸内細菌叢の組成を調整する可能性が観察された。
ほとんどのベリーで酸化ストレス、炎症、血管機能など、MetSに直接または間接的に関与する因子に対する緩和効果を記録した。例えばブルーベリー、ビルベリー、クランベリーは酸化ストレスのマーカーである血漿酸化LDL、MDA、HNEレベル、および炎症のマーカーである血漿IL-6、TNF-αを低減し、ラズベリーは主に炎症マーカーに効果があると報告された。またブルーベリー、ストロベリー、チョークベリーは、FMD、AI、血管細胞接着分子などの血管機能マーカーに効果があることが示された。
In vitroおよびin vivo研究では、炎症、酸化ストレス、血管機能障害に対するベリー類の保護的役割が報告された。ストロベリー、ブルーベリー、バーベリーを含む果物や野菜の摂取量が多いほどCRPとTNF-α循環濃度が低く、IL-6も低いという相関が報告された。
ベリー類とベリー類抽出物はいくつかの酸化ストレスマーカー(MDA、ox-LDL、イソプロスタンなど)レベルを有意に低下させる一方、総抗酸化能とSODやGPxなどの内因性酵素の活性レベルを有意に増加させることが示された。
血管機能に関しては、ベリーやACNリッチベリーの介入後にFMDなどの血管反応性やAIなどの動脈硬化が改善したことが報告された。