アルミニウム (Al)はワクチン、制酸剤、食品添加物(AI含有食品添加物の成分として)、スキンケア製品、化粧品、台所用品として広く使用されており、また乳児用ミルク、乳製品、ジュース、ワイン、魚介類、茶、野菜など多くの食品に元素または汚染物質として存在する。
また、水処理により飲料水にも含まれることがあり、風化した岩石や土壌から自然に発生することもある。
1970年代以降、飲料缶や包装食品のAl化が進み、日常生活におけるAlの存在感は増している。またAlは産業界(鉱業、製錬、溶接など)で広く生成・使用されており、労働者は特にAl粒子にさらされている。
Alへの曝露は高血圧および認知障害のリスクを高める可能性があり、高血圧の影響が認知障害の誘発を媒介すると考えられている。
Alはヒトの呼吸器系、消化器系、皮膚系を通じて体内に吸収され、中枢神経系に著しい害を与えることで認知障害、アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患を引き起こす可能性がある。
Alはワクチンのアジュバントや多汗症治療薬として長い間医療用として使用されており、副作用プロファイルは低いとされている一方で、消臭剤中のAlが乳がんを誘発する可能性が指摘されるなど神経毒性や発がん性を示す研究が近年増加している。
第二次世界大戦以降Alへの曝露量が著しく増加し、世界人口の多くがAlの許容摂取量を超えており、特にAl汚染物質の潜在的毒性影響に対して脆弱なグループである子供でAlの許容摂取量の超過が観察されている。
摂取したAlの40%近くは腸管粘膜に蓄積される。
したがって、腸管は経口的なAlの流入に対して不可欠な盾である。
Alの経口摂取は腸管のホメオスタシスに有害な影響を及ぼし、腸管透過性調節、腸内細菌叢、および免疫機能に影響を及ぼす可能性がある。
リンクの研究はAlの主な有害作用をレビューし、Alの抗酸化物質および潜在的なキレート物質の生理学的効果を提唱することを目的としたもの。
Scopus、PubMed、Science Direct、Scielo、Google Scholarの各データベースで2012年から2023年までの科学論文を用いて検索した。
95論文が評価され、44がこのレビューに含まれた。
結果
欧州食品安全機関(EFSA)が定めた1週間の耐容摂取量である1mg Al/kg体重は食事からの摂取だけで達成可能。
Alの重大な有害作用としてヒトにおける神経毒性が証明されている。
Alの発がん性については今のところ証明されていない。
予防医学ではAlへの曝露を可能な限り低く抑えることが提唱されている。
急性中毒に対しては、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウムやデフェロキサミンなどのキレート剤が選択肢となり、モノメチルシラネトリオールの補給はキレート効果が期待できる長期戦略であると考えられる。
・近年、AIなどの各種金属への慢性的な曝露はますます一般化しており、重要な環境リスクファクターとなっている。Alは脳の生理学、免疫、そしてアルツハイマー病の有害タンパク質種(β-アミロイドやタウなど)を蓄積する役割に影響を与える。
・Alと脳損傷の興味深い関係はミクログリアの過活性化に関連している。
腫瘍形成や侵入微生物が関連する外傷後脳損傷を防ぐにはミクログリアが重要であることが大規模な科学研究によって示されており、実際に中枢神経系のミクログリアは脳組織の防御に重要な役割を担っている。
にもかかわらずミクログリアの過剰活性は補体の活性化や適応免疫の誘導、3つのFcγ受容体を通じて有害な影響をもたらす可能性がある。
Al注入部位ではミクログリア細胞が検出され、Al病変部におけるミクログリアの活性化が示された。Al注射部位付近のCD32+(FcγIIa受容体)発現パターンから、Alによる脳の毒性部位でミクログリアが貪食的役割を担っていると考えられる。
・Al毒性の急性有病率は低く、一般集団においてAlの食事暴露による急性影響は観察されな かった。にもかかわらず、アルミホイルは食品調理には推奨されないことがよく知られている。
最近の研究では、ベーキングペーパーやアルミホイルに含まれるFCM(食品接触材料)由来の有害物質の存在を調査するための分析方法の開発に焦点が当てられ、この研究ではFCMで水性ベースの酸性食品を摂取することで消費者が汚染物質にさらされる量が増えることが示された。AIはタンパク質と高い親和性を持ち、架橋することが可能である。
・透析患者においてAlの中毒症状が神経毒性に関連するものとして観察された。実際にAlが原因物質であることが確認され、患者の血清および脳内Al濃度が上昇していた。
罹患した患者は、記憶障害、認知症、および見当識障害を経験する。その原因はAlの脳組織からの除去・消失速度が遅いためと考えられ、Alは脳機能に直接影響を及ぼす。
Alは酸化ストレスを助長するほか、記憶に重要な海馬のカルシウムシグナル伝達経路を変化させ、神経細胞の可塑性を変化させることがある。
またコリン作動性ニューロンはAlの神経毒性に非常に弱く、Alは神経伝達物質であるアセチルコリンの合成に影響を与える。
この2つの神経生物学的影響は、Alとアルツハイマー(AD)の関連性にも寄与していると考えられている。
・Alへの慢性的な曝露は神経変性疾患(AD、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病など)の発生や発症に関連することが研究により示されてきた。
最近の研究では、AI処理したマウスの大脳皮質とミクログリア型BV2細胞でIL-1βタンパク質レベルが高く検出され、Alが神経炎症に関与している可能性が提唱された。
この神経炎症を悪化は神経変性作用につながる可能性がある。
・クレアチニン1gあたり約100μgのAl、血漿中約13μg/LのAlを使用した作業員の職業曝露後、非曝露者と比較して神経心理テスト(集中力、学習、記憶に関する)に有害な変化が観察された。職業上の曝露は、最大内部Al負荷の基準値(血清中5μg/L未満、尿中15μg/L未満)を容易に超える。尿中ではクレアチニン1gあたり50μgのAlが職業暴露の生物学的最大値とされている。100μg/gを超えるAlは、Al工業の労働者、特に溶接工で観察されている。
彼らは神経心理学的検査(記憶、学習、注意)の成績が著しく低下することが観察された。
しかし、脳症に伴う認知症の存在は観察されなかった。
AD患者では脳組織中にAlの増加が認められた。これが病気の原因なのか結果なのかはまだ不明である。
・南カリフォルニア大学環境科学研究室は、AIに起因する神経行動学的副作用として、震え、バランス障害、想起記憶の低下、認知機能の鈍化が最も多いことを発表した。また慢性腎臓病患者では、Alの毒性および高濃度曝露により骨疾患および神経毒性が発生する可能性があるとした。Alに長期間暴露されたステージ5の慢性腎臓病患者では、Al骨疾患や無症状Al過多の患者よりも高濃度のAl神経毒性が発現した。
・デフェロキサミンはキレート剤として作用し、AIによる透析副作用の有益な治療法として提示されている。デフェロキサミンの長期間注入が長期透析を受けている患者の骨からAlを除去し、2-4週間の注入後に骨の痛みを軽減し、身体活動を改善することが実証された。
・乳房の外側上部に腫瘍が増加することが観察されているが、この部位は乳腺組織が最も豊富な部位。乳がん患者(乳首から吸引した液体)から高濃度のAlが得られており、Al濃度は内側と比較して外側でより高かった。
・このレビューで選択された研究では、Alの1日平均食事摂取量は1.6-13mg(0.2-1.5mg/kg BW/週)であり、経口摂取されたAlの約0.1% しか消化管で吸収されてないにもかかわらず生物学的利用能を獲得することが示された。欧州食品安全機関(EFSA)が定めた耐容週間摂取量(TWI)は60kgの成人で1mg Al/kg体重(BW)で、個人によってはすでに飽和またはそれ以上である。小児における相対的暴露量は最も多く、最大で2.3mg/kg BW/週。
・Al中毒に罹患した場合、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムカルシウム(EDTA)またはアスコルビン酸(ビタミンC)とデフェロキサミン(DFO)などのキレート剤の組み合わせで治療を受けるとよい。
・2017年のランダム化比較臨床研究では、急性Al中毒の治療におけるビタミンEの効果を評価。治療群にはビタミンE(400mg/BD/IM)を投与。
血漿中マロンジアルデヒド(MDA)レベルは治療群で有意に低下した。
ビタミンEの投与群は挿管と機械的換気の必要性と期間を減少させ、対照群と比較して死亡率を有意に減少させた。ビタミンE療法は急性Al中毒の治療となる可能性がある。
・低用量Alの慢性的曝露がAD発症に寄与するかどうかは、その多因子性、変動性のため依然として議論の余地がある。