本日は個人的に大きな関心事である酸化ストレスに関わるデータをまとめてみたい。
閉経移行期〜閉経後女性の方に何か参考になれば幸いだ。
体内における酸化ストレスの増加は、動脈硬化、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病、癌などの様々な疾患に関与する可能性が報告されている。
酸化ストレスとは、フリーラジカル活性酸素種(ROS)の産生と細胞の抗酸化反応機構との間の不均衡と定義される。ヒト生体システムを酸化ストレスから守るために、酵素的および非酵素的な経路を含むいくつかの抗酸化防御機構によって活性酸素の生成が制御されているがその機能不全の状態を指す。
抗酸化酵素の活性は、年齢、臓器特異性、ホルモン状態など様々な要因に影響される。
ある種のホルモンはそれ自体が抗酸化物質として作用し、抗酸化反応システムの様々な酵素的および非酵素的構成要素に影響を与える。
エストロゲンは、エストロン(E1)、エストリオール(E3)および生理活性代謝物である17β-エストラジオール(E2)を含む性ステロイドホルモンで、主に卵巣で産生されて女性の生殖機能の調節に重要な役割を担っている。
更年期には酸化ストレスが増加することから、エストロゲンが抗酸化作用を持つ可能性が示唆されている。
過去の研究で、E1、E2、E3はin vitroでマイクロソームの脂質過酸化を抑制し、すべてのエストロゲンはin vitroで低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を抑制する効果が確認されている。(E2が最も抑制効果が高く、E1、エクイリン、E3がそれに続く)。
また閉経後女性で、生理的レベルのE2がLDL酸化を抑制する効果を持つことも報告されている。
一方で、投与されたエストロゲンが酸化促進作用を示すという研究結果もある。
40〜48歳の女性における経口避妊薬摂取が過酸化脂質を有意に増加させるとの報告がある。
また、0.03mgのエチニルエストラジオールと3mgのドロスピレノンを含む経口避妊薬が、過酸化脂質と酸化LDL平均値を有意に上昇させることが実証された。
加齢に伴う抗酸化活性の低下と酸化ストレス増加は、酸化的LDLを増加させる。
酸化ストレスは様々な加齢性疾患の病因に関与し、更年期は酸化ストレス増加に伴って動脈硬化、アルツハイマー病、閉経後骨粗鬆症など様々な慢性疾患に罹患しやすくなる。
リンクの研究は、女性における内因性エストロゲンの酸化ストレスへの影響を明らかにすることを目的としたもの。
女性の酸化ストレスに対するエストロゲンの役割は、特にエストロゲンを投与した場合、投与量、投与経路、エストロゲンの種類によって影響が異なるたため不明だった。
健康な閉経後(n = 71)および閉経前(n =72)の女性ボランティアを対象に、非介入型の観察研究を実施。
血清中活性酸素代謝物誘導体(d-ROM、酸化ストレスの総称)レベル、および生物学的抗酸化能(BAP、抗酸化力の指標)を、(1)閉経前後の女性、および(2)月経周期の卵胞期初期と黄体期中期の閉経前女性の間で比較検討。
結果
閉経後女性の血清d-ROMsおよびBAP値は、閉経前女性に比べ有意に高かった。
さらに、d-ROM値は血清銅濃度と有意な相関があった。
卵胞期と黄体期の間のd-ROMの変化は銅濃度変化と有意な相関があったが、d-ROMもBAP値も月経周期の相異には有意な影響を受けなかった。
この結果は、閉経後の低エストロゲン状態が酸化ストレスの上昇と関連していることを示しているが、月経周期中のエストロゲン濃度の規則的な変動は酸化ストレスに影響を与えないことがわかった。
Impact of Menopause and the Menstrual Cycle on Oxidative Stress in Japanese Women
・酸化ストレス指標であるd-ROMsと抗酸化蛋白質の指標であるBAP血清レベルが、閉経後女性では閉経前女性より有意に高いことを明らかにした。
他の研究では、閉経後メキシコ人女性は妊娠適齢期女性と比較して、有意に高い酸化ストレスマーカー(ジエン共役体、リポヒドロペルオキシド、マロンジアルデヒド、カルボニル化タンパク質など)を示し、総抗酸化能(TAC)も高かったと報告されている。
また、グルタチオンペルオキシダーゼ値は有意に低かったものの、マロンジアルデヒド、4-ヒドロキシネナール、酸化LDLは閉経後女性で妊娠適齢期女性より有意に高いことも明らかになっている。
・重回帰分析では血清銅濃度がd-ROM値と有意な相関があり、年齢、閉経からの年数、身長、体重、血清BAP、血清鉄、酸化LDL値には相関がなかった。
両側卵管切除術といった手術後の閉経者女性を比較した横断的分析では、手術による閉経(低エストロゲン状態)は酸化ストレスを増加させる可能性があることを示唆した。
・月経周期の初期卵胞期と中期黄体期の女性間で、血清d-ROMレベルおよびBAP値に有意差がないことを明らかにし、周期中のエストロゲン変動は酸化状態に影響を与えない可能性を示した。
月経周期が酸化ストレスに及ぼす影響について調査した研究は少なく、結果は一致しない。
・重回帰分析の結果、E2もプロゲステロンも卵胞期および黄体期の血清d-ROM濃度と相関がなかった。
・閉経後および(卵胞期と黄体期両方の)閉経前女性において、血清銅濃度のみがd-ROMと有意に相関していることを明らかにした。
d-ROM値は、活性酸素によって酸化されたヒドロペルオキシド(ヒドロキシルラジカル)を中心とする活性酸素代謝物レベルを示すため酸化ストレスを反映する。ヒドロキシルラジカルは生体内で銅イオンや鉄イオンなどの金属イオンがフェントン反応に関与することで生成される。
内因性エストロゲンが酸化ストレスに与える影響は、銅レベルによって間接的に反映されるのではないかと推測される。