近年、概日リズムの乱れとがんリスクとの間に関連性があることを示す証拠が増えている。
概日リズムの乱れは多くの生理機能(呼吸、代謝、免疫系など)や生物活性(ホルモン分泌、アポトーシス、DNA修復など)に悪影響を及ぼすと考えられており、2019年には国際がん研究機関(IARC)が研究結果から夜勤労働(一般人の規則的な睡眠時間中の労働)はヒトに対する発がん性物質(Group 2A)となる可能性が高いことを公表した。
サーカディアンディスラプションが最も重要な要因となるという。
しかし一方で、夜勤労働と乳癌の関連を調査した研究はいくつかあるが、それらの結果は一貫していない。
夜勤勤務や夜間の家庭内光(外光や就寝中の室内光など)などによる夜間の光暴露が概日リズムに影響を与えることは判明している。
いくつかのラット実験では、夜間に1分間でも光を浴びるとメラトニン濃度が劇的に低下することがわかっている。
1980年の研究では、ヒトのメラトニン濃度が光量と関係していることが初めて報告された。メラトニンは主に松果体から分泌され、その分泌は概日リズムを持っており夜間に多く分泌されるが、夜間の光照射はメラトニン分泌を抑制して女性ホルモンの分泌を促進し、その結果乳がんリスクを増加させると考えられている。
現在、職業集団に焦点を当てた研究や夜間の家庭内光と乳がんの関連を調べた研究も少ない。
リンクの研究は、概日リズムの乱れと乳がんリスクとの関連を調査した中国の研究。
中国におけるサーカディアンディスラプターの乳がんリスクへの影響を探るために実施された症例対照研究。
中国医学科学院癌病院乳腺外科に入院している症例464名と対照者464名が対象。
年齢、BMI群、喫煙、飲酒、閉経状況、乳癌の家族歴、授乳期間、初潮年齢、妊娠回数、初回正期産年齢、エストロゲン使用、経口避妊薬使用を調整し、多変量ロジスティック回帰分析により、睡眠時間短群では乳癌リスクが高いことが示された。
CRY2のrs2292912、PER1のrs2253820、PER1のrs2289591、PER1のrs3027188は乳癌のリスクと正の相関があった。
睡眠時間の短さと重要な概日性遺伝子の4つのSNPsが乳がんの発症に関与していることを支持するものだった。
Circadian Disruption and Breast Cancer Risk: Evidence from a Case-Control Study in China
・中国の症例464名と対照464名を対象とした症例対照研究により、睡眠時間の短さは乳がんの高さと有意に関連していることが明らかになった。
CRY2のrs2292912、PER1のrs2253820、PER1のrs2289591、PER1のrs3027188は乳癌のリスクを有意に増加させる可能性があることがわかった。
・2021年6月までに発表された4,331,782人からなる33件の観察研究によるメタ分析では、夜勤勤務は乳がんリスクと有意な関連を示すことが明らかになった。
また、20以上交代勤務(3泊/月以上の勤務)を経験した女性のみ、乳がんリスクが高くなることが明らかになった。
中国人のケースコントロール研究では、夜勤(午前0時から午前6時の間に少なくとも週1回以上、6カ月以上勤務)が乳がんリスク上昇と関連することが観察された。
・一方で、中国の上海で行われた別症例対照研究では夜勤勤務(午後12時から午前5時までの勤務)の期間および頻度のいずれとも関連は認められず、本研究の研究結果と一致した。
この不一致は、研究間で夜勤労働の定義に一貫性がなく、想起バイアスや交絡因子が存在する結果である可能性がある。
・睡眠中にカーテンを引いたり電気をつける女性は乳がんのリスクが高い可能性があった。
コネチカット州で行った症例対照研究でも、夜間の睡眠中に電気をつけたり、カーテン/窓のシェードを引かないことが乳がんリスクを高める可能性があることが分かっており、本研究の結果と一致する。
・2021年に発表された15の前向き研究、65,410例の乳がん症例を含む最新のメタアナリシスでは、短い睡眠時間、長い睡眠時間と乳がんの間に関連はないことが明らかになったが、日本人女性23,995人を含む前向きコホート研究では、睡眠時間が6時間以下の女性は、睡眠時間が7時間の女性よりも乳がんリスクが高いことが明らかにされている。
Sister Studyコホート(N=50,884)の前向き研究では、睡眠時間と乳がんとの関連は認められなかったが、週4日以上の睡眠困難がある女性は睡眠困難がない女性と比較して全乳がんおよび閉経後乳がんリスクが高いことが示された。
・CRY2のrs2292912、PER1のrs2253820、PER1のrs2289591、PER1のrs3027188の4つのSNPが乳がんリスクと有意に関連することが示された。
韓国で行われた症例対照研究(症例941例、対照959例)では、CRY2のrs2292912のCG遺伝子型を持つ女性では、夜勤が乳癌リスクを高める可能性があることが示された。
ちなみにPER1の Rs2253820 は、漢民族の中国人におけるパーキンソン病リスクと有意に関連している。
白人集団で行われたケースコントロール研究では、PER1のrs2289591はより侵襲的な前立腺がんリスクと関連していた。