我が国の喘息罹患率は1980年代以降上昇〜高止まり傾向にある。
近年の研究から、喘息などの慢性呼吸器疾患およびアレルギー性疾患の発症は、生後間もない時期が重要であると考えられている。
特に母親の危険因子(肥満度(BMI)、妊娠中体重増加(GWG)、妊娠糖尿病(GDM))を考慮すると妊娠は一次予防の機会の窓と見なされ、出生前の喘息罹患要因と考えられる。
喘息は異質な疾患として、異なる喘息の表現型(例えば、アレルギー性喘息と非アレルギー性喘息)には異なる基礎的メカニズムおよび病因があることが示されてきたが、GWGまたはGDMと小児喘息との関連についてほとんど検討されていない。
また、母親のGWGおよびGDMと小児喘息との関連に関するデータは限られており、結果に一貫性はない。
リンクの研究は、米国の出産前コホートにおいて小児喘息と上記の危険因子の関連を調査することを目的としたもの。母親の妊娠前BMI、GDMと小児喘息との関連を調べた初めての研究。
Massachusetts General Hospital Maternal-Child Cohort(1998~2010年)に登録された16,351組の母子が対象。
合計2306人の子供(14%)が5歳までに喘息を発症した。
全体として、GWGと喘息の間に関連は認められなかった。
GDMは喘息と正の相関を示した。
GDMと喘息の関連は、妊娠初期のBMIが20~24.9kg/m2の母親でのみ観察された。
GDMの母親、特にBMIが正常な母親におけるリスクの上昇が示唆された。
Cohort Study of Maternal Gestational Weight Gain, Gestational Diabetes, and Childhood Asthma
・妊娠初期の過体重または肥満と子孫の喘息リスク上昇に正の相関が確認され、さらに妊娠初期の低BMI(<20kg/m2)とアレルギー性喘息との関連も確認された。
・最新のメタ解析では、母親の高BMIと子孫の喘息リスク上昇の関連は確立されているが、母親の低BMI(低体重)と喘息リスクとの関連はないと報告されている。
この研究では、母親の低BMIは子孫のアレルギー性喘息とのみ関連していた。
母親のBMI関連でアレルギー性表現型を調べた研究はほとんどない。
デンマークの研究では、母親の低体重が子孫の喘鳴リスク上昇と関連していることが明らかになり、また、他のいくつかの研究ではアトピー性皮膚炎リスク増加との関連も見出されている。母親の低BMIとアトピー性疾患との関連が、アレルギー性喘息で観察されている結果を裏付けている可能性がある。
・GWGには子孫の喘息との明確な関連は見られなかった。
実際、非常に高い体重増加(≥45lb)とアレルギー性喘息を除いて、GWGと喘息との間に関連は認められなかった。
出生登録と健康管理データベースを連結して214,017人を対象としたカナダの研究でもGWGと喘息との間に関連は認められなかった。この研究の著者は、妊娠前BMIと子供の喘息との関連とは対照的にGWGと子供の喘息との関連は無いかまたはわずかであり、喘息リスクに影響を与えると考えられている炎症マーカーにはGWGよりも妊娠前BMIが強く影響すると指摘している。
・この研究では、GDMが子孫の喘息リスク上昇と関連していることを明らかになった。
2021年に発表されたメタアナリシスでも、子孫の喘息リスクが緩やかではあるが有意に増加することが明らかになっているが、母親の糖尿病のすべてのタイプを一緒に調べており、特にGDMを調べているわけではない。
今回の結果は、GDMと小児喘息との関係に関する限られたエビデンスに重要な追加情報を提供する。
・GDMと小児喘息との関連は、妊娠初期のBMIが正常な女性で、特に非アレルギー性喘息についてより強い関連が観察された。これは主に非アレルギー性経路の影響を示唆しているが、これについては確認が必要。
体重過多または肥満の女性に関連がないのは、母親の体重過多または肥満によって子孫の喘息リスクがすでに高まっており、GDMによってさらに高まることはない可能性があるためかもしれない。
・GDMのサブタイプのうち、インスリン抵抗性GDM(約半数)だけが高BMIと関連していた。
インスリン抵抗性GDM女性は、耐糖能異常の女性と同程度のBMIだった。
・妊娠中の地中海食介入はGDMリスクを減らすことが示され、子どもが2歳までに喘息または気管支炎で入院するリスクの低下と関連している。
この知見は、妊娠前のBMIが25kg/m2未満の女性においてのみ観察された。
以上、小児喘息の一次予防に役立つデータでは無いだろうか。