妊娠適齢期の女性で般的な膣炎である細菌性膣症(BV)は、優勢な生理的乳酸菌種からなる膣内細菌叢が、Gardnerella vaginalis、Prebotella bivia、Atopobium vaginaeなどの病理的嫌気性・通性細菌種へとディスバイオーシスすることが特徴。
BVの推定有病率は世界で23〜26%、有症状BV治療は全世界で約48億ドルもの経済的負担につながっているという。
妊娠初期の妊婦さんは、一般集団よりもBVに感染しやすいと考えられている。
妊娠中のBV発症は尿路性器感染症や骨盤内炎症性疾患を誘発するだけでなく、早産、後期流産、子宮内胎児死亡、絨毛膜羊膜炎、低体重出生など、多くの産科的有害転帰につながる可能性がある。
BVの発症機序はまだ十分に解明されていないが、性的パートナーの数の多さ、初回性交時の年齢の低さ、定期的な膣洗浄、喫煙など、多くの要因が関係しているとされている。
また、妊娠中はビタミンD欠乏はBV発生リスクが高くなる可能性がある。
ビタミンDは骨の発達に重要な役割を果たすだけでなく、カテリシジンの発現など抗炎症反応の誘発や炎症性サイトカイン(IL-1βなど)の産生低下など、免疫調節にも関与する。
ビタミンD欠乏症が世界中の妊婦で観察されている一方で、現在まで妊娠中のビタミンD欠乏とBVリスクとの関係を調べた疫学研究はわずかしかなく、結論は一貫していない。
リンクのデータは、妊娠中のビタミンD欠乏とBVリスクとの関係を定量的に評価したメタ解析。
PubMed,Embase,Cochrane Library,Web of Scienceの4つのデータベースについて創刊から2022年7月まで検索。
結果
ビタミンD欠乏は妊娠中のBVのリスクを54%増加させる可能性があることが示された。
結論
このメタ解析では、ビタミンD欠乏が妊娠中のBVのリスクと正の相関があることが示された。ほとんどのサブグループ解析も質が高いと考えられ、交絡因子について調整された研究においてこの結果が支持された。
Vitamin D deficiency increases the risk of bacterial vaginosis during pregnancy: Evidence from a meta-analysis based on observational studies
・13論文と14の研究から、ビタミンD欠乏が妊娠中のBVリスクを54%増加させる可能性が示された。具体的には、妊娠第1期のビタミンD欠乏と黒人女性はBVリスクがそれぞれ最大122%と56%上昇した。高品質、交絡因子に対する調整、コホート研究のサブグループでも同様の傾向が見られた。
・ビタミンD不足の解消が非妊婦の無症候性BVを除去する可能性も報告されている。
米国医学研究所の勧告では、妊婦は1日に平均600IUのビタミンDを摂取し、血清ビタミンDを少なくとも30ng/mLに維持することが望ましいとされている。
・ビタミンDの欠乏がBVの感受性を高める正確な生物学的メカニズムの一つとして、ビタミンDがVDR(ビタミンD受容体)/p-RhoA(ras homolog遺伝子ファミリー)/p-Ezrin(細胞接合タンパク質)経路を誘発して膣上皮の細胞間接合を増加させ、膣の微生物環境のPH値を減少させる可能性があげれられる。さらに、ビタミンD欠乏は膣萎縮を誘発し、バリア機能を低下させてBVリスクを増加させる可能性がある。
・二つ目のメカニズムとして、ビタミンDは多くの免疫細胞に発現するVDRとの結合を通じて、主要な自然免疫細胞の抗菌活性を増強し、適応免疫応答の調節など多様な免疫調節作用に関連している。主にカテリシジンやβ-ディフェンシンなどの抗菌ペプチドの合成をアップレギュレートすることによってもたらされ、侵襲性細菌感染症の予防と制御、生殖器免疫能の向上が期待される。
・ビタミンDによるVDRライゲーションは抗菌ペプチド合成や抗炎症性サイトカイン産生を促進し、炎症性サイトカインの発現を抑制する。
・ビタミンDは膣の微生物環境に影響を与える役割を担っている可能性がある。
カルシウム濃度を上昇させることでインスリン分泌を刺激し、グリコーゲン合成を増加させ、膣内のグリコーゲン沈着を誘導する可能性がある。
遊離グリコーゲンの濃度が高いと乳酸菌種のコロニー形成が促進され、膣のpHが低下し、他の細菌の増殖が阻害される。
思春期の黒人女性を含むパイロット研究では、膣内のグリコーゲン濃度が高いほどラクトバチルス属の優占に正の関係があることが示されている。
ビタミンDの欠乏は膣内のグルコースホメオスタシスを変化させ、BVの有病率を高める可能性がある。
・BVの危険因子として知られている定期的な膣洗浄や喫煙もBVの危険因子として知られている。