昨年に比べ妊娠糖尿病に関するデータの公表が増加している印象だ。
パンデミック下の生活様式による罹患リスク上昇と関係しているのかもしれない。
妊娠中のインスリン抵抗性は胎盤機能低下や子宮内発育制限と関連があるとされており、妊娠中の有害事象の発生を予測すると考えられている。
妊娠中のインスリン抵抗性を正常な状態に保つことは、これらの疾患や有害転帰の発生を抑制し、母体と胎児の健康に寄与する。インスリン感受性には遺伝要因と環境要因が影響し、食事と運動はインスリン感受性に影響を与える重要な制御可能因子。
数々の研究から、食事中の食品組成が糖尿病およびインスリン抵抗性と関連することが分かっている。動物由来食品の摂取は妊娠糖尿病の発症リスクを高める可能性があり、赤身肉の摂取は糖尿病およびインスリン抵抗性のリスクを増加させることが明らかにされている。
一方、植物由来食品を多く含む食事パターンの多くは、糖尿病やインスリン抵抗性の制御に有益であることが分かっている。
また、食事に含まれる特定の栄養素がインスリン抵抗性に影響を及ぼす可能性もある。
食事性脂肪がインスリン抵抗性に影響を与えることは以前から知られているが、より最近の研究ではインスリン抵抗性に影響を与えるタンパク質の重要性が明らかにされている。タンパク質は妊娠に重要な栄養素で、母体のタンパク質要求量は妊娠中に増加して妊娠後期には高くなる。
しかし、非妊娠者を対象とした研究では食事からの総タンパク質摂取量はインスリン抵抗性レベルと正の相関があり、インスリンの調節が食事からのタンパク質によって影響を受けている可能性がある。
植物性タンパク質と動物性タンパク質ではアミノ酸組成が大きく異なると考えられており、インスリン抵抗性に影響を与えるメカニズムが解明されつつある一方、非妊娠者では食事中のタンパク源もインスリン調節に影響を与える可能性があることが明らかになったが、妊娠者ではデータが限られている。母親とその子孫の健康上の不利益を避けるために、妊娠中のタンパク質源のインスリン抵抗性への影響を研究することが一層重要になっている。
リンクの研究は、食事性タンパク質の供給源がインスリン抵抗性に影響を与える可能性を妊娠中の集団と動物実験を組み合わせて検討したもの。
結果
植物性タンパク質の摂取は全体としてINSおよびHOMA-IRと負の相関があることがわかった。
第3期においても同様の相関が認められた。
また、動物実験でも同様の結果が示された。メタボローム解析では、様々な代謝物やFoxOやmTORシグナル伝達経路を含む関連経路の変化が観察された。
妊娠中の植物性タンパク質摂取量と母体のインスリン抵抗性との間に負の相関があることがわかった。複数の活性物質と関連する代謝経路の変化が重要な役割を担っている可能性があると結論。
Dietary Plant Protein Intake Can Reduce Maternal Insulin Resistance during Pregnancy
・母親集団調査と動物実験を組み合わせることで、妊娠中の異なる食事性タンパク質摂取が母体のインスリン抵抗性に影響を与える可能性があることを明らかにした。
母親集団研究において、植物性タンパク質摂取量はINSおよびHOMA-IRと負の相関があった。
動物実験でも母親集団研究と一致した結果が得られ、妊娠後期の妊娠ラットの植物性タンパク質摂取割合の増加とともにINSとHOMA-IRのレベルが減少し、食事タンパク源は母体のインスリン抵抗性に影響を与えることが明らかになった。
・動物性タンパク質を植物性タンパク質に置き換えるモデルや介入を行った結果、インスリン抵抗性の発現を緩和したと報告した研究もあり、植物性タンパク質が妊娠女性に有益であることが示唆された。他の研究とは異なり、今回の研究では総タンパク質および動物性タンパク質摂取量とインスリン抵抗性の間に関連は見られなかった。
・アーカンソー州(米国)の妊娠後期の妊婦173名の妊娠後期の女性を対象とした研究では、総タンパク質および植物性タンパク質の摂取量とインスリン抵抗性の間に負の関係がある一方で、動物性タンパク質の摂取量とインスリン抵抗性の間には関係が存在せず、今回の結果と一部一致した。
・動物実験では、食事性植物性タンパク質の摂取量と割合が増加すると母体のINSとHOMA-IRが減少するという母親集団研究と一致する結果が得られた。過去の動物研究は、食事性タンパク質の量にしか興味がなく、食事性タンパク源の違いが母親のインスリン抵抗性に及ぼす影響について調べた動物実験はなかった。
・一定量の総タンパク質摂取のもと、植物性タンパク質100%群と動物性タンパク質100%群の妊娠ラットの血漿中のアミノ酸およびその誘導体、ビタミンおよびその誘導体、脂肪酸誘導体、カルボン酸、その他の活性代謝物の濃度が大きく変化した。末梢循環におけるBCAAの減少は、インスリン抵抗性の低下と関連していると考えられている。
今回、動物性タンパク質100%摂取群と比較して、植物性タンパク質100%摂取群では、BCAAの中で最も代表的なアミノ酸とされるロイシンが血漿中で有意に減少しており、植物性タンパク質摂取が母親のインスリン抵抗性を低減するメカニズムの一つである可能性が明らかとなった。
・非妊娠者を対象とした研究では、ヒスチジンの摂取制限がインスリン抵抗性の低下と関連する可能性があることが分かっており、植物性タンパク質100%群でもヒスチジン濃度の有意な減少が認められた。
・ロイシンに加えて、アデノシン二リン酸(AMP)、アルギニン、グルタミン、アスパラギンといった様々なシグナル伝達分子のレベルが、mTORシグナル伝達経路において大きく変化していることを発見した。AMPはAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性に影響を与えることで mTOR シグナル伝達経路に影響を及ぼした。アルギニンからのシグナルは Rag GTPase を介して mTORC1に伝達され、グルタミンまたはアスパラギンは Rag GTPaseとは独立して mTORシグナル伝達経路に影響を与える可能性があることが示された。
上記の活性物質レベルの変化は、母体のmTORシグナル伝達経路に影響を及ぼし、それによって母体のインスリン感受性に影響を及ぼすと考えられる。
結論
妊娠中の食事性植物性タンパク質摂取量と母体のインスリン抵抗性の間に負の相関があることを見出した。
タンパク質の摂取量の違いは、血漿中の一部のアミノ酸やその他の活性物質、およびmTORシグナル伝達経路やFoxOシグナル伝達経路などの関連代謝経路の変化を誘発し、母体のインスリン抵抗性に影響を及ぼす可能性がある。