日本における死因のトップである「がん」。
2020年、米国では約180万人のがん患者が報告され、毎日約4950人が新たにがんと診断されているという。
すべてのがんのうち、乳がんは女性の死因の第2位を占めている。
いくつかの研究で、ビタミンD欠乏とがんとの関連性が指摘されている。
あるメタアナリシス研究では、閉経後女性における血清25(OH)D濃度と乳がんリスクとの間に逆相関があることが示されている。
近年ビタミンDの役割は注目を集めており、血清25(OH)D濃度と糖尿病、肥満、メタボリックシンドローム、うつ病、がん、感染症などの慢性疾患との関連は多くの研究で指摘されている。
リンクの研究は、米国の閉経後女性における血清25(OH)D濃度と乳癌リスクの関連を調査することを目的としたもの。
2001年から2014年までの7サイクルのNational Health and Nutrition Examination Surveysのデータを使用。
参加者は非施設入所者の閉経後女性。
解析では、閉経後女性における血清25(OH)D濃度と乳癌の間に逆「U」字型の相関が認められた。
全体として、乳癌リスクは血清25(OH)D濃度が70nmol/Lから80nmol/Lの間で最も高かった。その後、血清25(OH)D 80nmol/L濃度以降は乳癌リスクは減少。
多変量調整ロジスティック回帰では、血清25(OH)D75-ˊ100nmol/Lのカテゴリーでは、25(OH)D<30nmol/Lのカテゴリーと比較して乳癌罹患リスクが有意に高くなった。
血清ビタミンD濃度100nmol/L以上は、閉経後女性における乳癌のリスク低減と関連している。
予防効果があるかどうかを確証するためにはさらなる対照試験が必要と結論。
・本研究は米国のサンプルにおいて、閉経後女性における血清25OH)D濃度と乳癌との間に有意な非線形相関を示した初めての研究。
・血清25(OH)D濃度が75-ˊ100nmol/Lでは、ˊ30nmol/Lのグループと比較して閉経後女性における癌にかかる確率が2倍以上高くなることが示された。
さらに、血清25(OH)D濃度が75nmol/L以上で乳がんリスクが最も高く、血清25(OH)D80nmol/L以上でリスクが減少することが確認された。
いずれの解析も、閉経後女性における血清25(OH)Dと乳癌の全体的な逆「U」字型傾向の関係と一致している。
・限られた数の研究で統計的有意差には至らなかったが、血清25(OH)D濃度の上昇に伴い乳癌のリスクが高くなることが示されている。
・欧州の3つのコホート(平均年齢63歳)のデータを組み合わせた研究で、25(OH)D濃度が50nmol/Lを超えると乳癌のリスクが増加することが示された。
さらに、ドイツの集団ベースのコホート研究では、50歳から74歳の女性において8年間の追跡期間中に25(OH)D濃度が高いほど乳がんリスクが増加することが報告されている。
・一方で、いくつかの研究では血清25(OH)Dと乳癌の間には関係がないことが報告されている。
・対照的に、乳癌の有病率と血清25(OH)Dとの間に逆相関を見いだした研究もいくつかある。
それらの相反する結果は、研究参加者の特性の違いや遺伝、代謝の個人差による可能性が高い。
・ビタミンDの抗炎症作用と抗酸化防御作用は腫瘍の発生を防ぐ。また、ビタミンDは癌細胞においてオートファジーモードを生存モードから死滅モードに切り替えることにより、癌細胞のアポトーシスを誘導すると仮定されている。
・高血清25(OH)Dは、25(OH)D1-α水酸化酵素(CYP27B1)(血清25(OH)Dを1,25(OH)2Dに変換)活性が最適の場合にのみ癌に対する保護作用を示すことが分かっている。
しかし乳癌では、CYP27B1の発現が低下しているため、血清25(OH)Dによる保護効果が制限される。
・乳房組織では腫瘍の進行に伴い、1,25(OH)2D24-水酸化酵素(CYP24A1)の発現が増加し、CYP27B1の発現が減少することが明らかになっている。乳癌におけるVDR、CYP27B1、CYP24A1の発現は、活性型1,25(OH)2Dの存在を減少させることで腫瘍の進行を促進させる可能性がある。
・メタアナリシス研究からの最近のエビデンスでは、血清25(OH)D(食事からのビタミンD摂取量ではない)と乳癌との逆相関を示唆した。
・一方でVDRの高発現は、乳がんによる予後の改善や死亡率の低下と関連していたとするデータもある。ビタミンDはVDRと結合することで生体機能を発揮する。乳がん細胞は正常細胞に比べてVDRを多く発現している。