健康と疾病の発生起源仮説(DOHaD)に関する記事を過去にもいくつか書いているが、今回も非常に興味深いデータをご紹介したい。
なるべく簡潔にわかりやすくまとめるために個別の遺伝子型の段はあえてまとめず。
興味がある人はリンクから原文に行ってほしい。
読むの苦手な人は一番下に結論書いてあります。
さて
母親の栄養状態が胎児の成長と初期発達にとって重要な要因であることは間違い無く、近年の研究では
母親の低タンパク(LP)食、すなわち出生前にLP食に暴露された胎児はインスリン抵抗性を示すリスクが高く、正常な胎児と比較して二型糖尿病(T2D)の有病率が非常に高いことが分かっている。
母体のLP食は胎児の体内の循環アミノ酸濃度を低下させ、低出生体重や骨格筋の発達障害を引き起こす確率が高くなる。
骨格筋におけるグルコースと脂肪酸の燃焼プロセスは、骨格筋に存在するミトコンドリアの機能に依存的であるため、骨格筋のミトコンドリアの質と量は、グルコース代謝のホメオスタシスにとって重要。
インスリン刺激によるグルコース代謝プロセスが骨格筋で行われるため、骨格筋は末梢性インスリン抵抗性の主要な部位。
末梢性インスリン抵抗性はT2Dの予測因子でもある。
骨格筋の正常な発達には胎児期の栄養が重要で、胎児の発達中に形成される筋繊維の質と量によって決定される。
また、母体の栄養欠乏は、筋繊維の数だけでなく骨格筋の機能的属性や幹細胞の活性にも影響を及ぼすと言われている。
LP食ベースの動物モデルを用いた先行研究では、ミトコンドリア機能の長期的な変化が報告されている。さらに、出生前のLP食と出生後の高脂肪食は、骨格筋のミトコンドリア酸化の減少をもたらすことがわかっている。
別の研究では、胎児期および出生後早期のタンパク質制限で骨格筋のmtDNAが減少し、ミトコンドリアコード化遺伝子のダウンレギュレーションが起こることが示されている 。
また以前の研究では、LP誘発痩せ型T2Dラットの子孫ラットは、出生時は小さいが急速にキャッチアップ成長するが体重、体格指数、脂肪量はコントロール群と比較しても増加することなく、年齢が上がるにつれて耐糖能異常とインスリン抵抗性が徐々に悪化することが示された。
さらに研究では、グルコースホメオスタシスの障害は男性に比べ女性においてより大きな調節障害が起こる可能性も明らかになっている。
リンクの研究は、LPプログラミングされたT2D女性子孫の骨格筋におけるミトコンドリアの健康状態および役割を調べることを目的としたもの。
妊娠4日目に、ラットを20%のタンパク質を含む対照食または等カロリーの6%のタンパク質を含む食餌に振り分け。
出産後、離乳終了までの母ラットと離乳後の仔ラットに標準実験食を与えた。
妊娠中のLP食は腓腹筋のミトコンドリア超微細構造に変化をもたらし、巨大ミトコンドリアの存在が9倍増加した。
機能解析の結果、LPプログラミングによってミトコンドリアの機能が損なわれていることがわかった。
ミトコンドリアのコピー数には大きな変化は見られなかったが、Fis1、Opa1、Mfn2、Nrf1、Nrf2、Pgc1b、Cox4b、Esrra、Vdacといったミトコンドリアの構造と機能に関わる主要遺伝子が制御不全に陥っていることが判明。
この研究は、出生前のLPプログラミングが、女性子孫の骨格筋においてミトコンドリアの超微細構造と機能の破綻を誘発することを示唆している。
Prenatal Low-Protein Diet Affects Mitochondrial Structure and Function in the Skeletal Muscle of Adult Female Offspring
・LPプログラムされたT2Dラットは、末梢インスリン抵抗性につながるインスリンシグナル伝達を低下させている。インスリン抵抗性状態ではミトコンドリア機能不全がインスリン標的組織で観察される。
ミトコンドリアの異常は、しばしばメタボリックシンドロームと関連する。
・妊娠中のLP食は骨格筋ミトコンドリア機能を異常化し、インスリン抵抗性を引き起こす。
この研究は、妊娠中のLPプログラミングが痩せ型T2Dラット成体雌の骨格筋において、ミトコンドリアのコピー数の変化なしに、ミトコンドリアの形態、微細構造、機能に著しい変化をもたらすことを報告した初めての研究。
・Mito Stress Testを用いた機能解析では、LP骨格筋は対照筋よりもミトコンドリア機能が劣っていることが示された。FCCP(ぐぐって)存在下でのミトコンドリア呼吸(最大呼吸)は、LPラットでは対照動物に比べ少なかった。
最大呼吸能力の低下は、骨格筋が追加的なATP需要に対応できないことを示しており、2型糖尿病患者の骨格筋ミトコンドリアでは最大呼吸容量の減少が報告されている。
・LP骨格筋が示す呼吸能の低下は、LPミトコンドリアの本質的な欠陥とエネルギー需要の増加時に適応する能力の低下を示している。
結論
胎児期のLPプログラミングは、女性胎児の骨格筋においてミトコンドリアの形態と機能の破壊、およびミトコンドリア生合成と動態に関与する遺伝子の調節不全を引き起こすことが明らかとなった。
さらにLPプログラミングは、最大呼吸、予備呼吸能力、ミトコンドリア複合体Iレベルを低下させることにより、細胞の生体エネルギー学を損なった。
LP食によるミトコンドリア機能障害は子宮環境で影響された遺伝子の修正であり、成熟期のミトコンドリア機能障害に子孫を晒す可能性があることを示した。
以上のことから、母親のタンパク質制限は女性子孫の骨格筋ミトコンドリア機能障害を誘発し、末梢のインスリン抵抗性につながることが示唆された。