妊娠初期の胎盤機能と遺伝子発現は女性の代謝状態に影響され、胎盤機能不全は妊娠初期に最も起こりやすいことが報告されている。
妊娠初期以降に開始された生活習慣病に対する介入は胎盤遺伝子発現への影響が少なく、周産期罹患率を低下させることが示されている。
DOHaD仮説において、肥満が出生〜成人まで持続的であるためすることから、妊娠初期の母親の血糖値コントロールを子孫の肥満に対する予防的介入として取り入れる必要性が報告されている。
しかし一方で、「睡眠」は正常なグルコースレベルに影響を与え、妊娠中に修正することができる因子の一つであるが重要性が見落とされがちだった。
母親は妊娠初期に睡眠パターンが変化しているため、出産後に妊娠前の睡眠パターンに戻すことが困難なケースがある。
妊娠後期は妊娠初期に比べて夜間の睡眠時間が25~40分短くなり、87%の妊婦が睡眠障害を経験している。
非妊婦を対象とした研究では、睡眠時間がインスリン感受性とグルコース代謝を損ない、II型糖尿病のリスクを高めることが示唆されている。また、肥満および心血管合併症のリスクを高めることも示されており、その結果、子宮内発育不全、低出生体重児、早産などの妊娠転帰に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。
妊娠中の睡眠時間が妊娠糖尿病(GDM)発症リスクに影響するかどうかを調査した過去の研究結果はそれぞれ一致しておらず議論が分かれている。
また、研究の焦点が主に妊娠転帰であるため、母親の睡眠が子孫の成長に及ぼす影響に関する研究は十分ではない。
リンクの研究は、母親の睡眠パターンがGDMの発生に及ぼす影響、およびGDMが子孫の身体的成長に及ぼす影響について検討したもの。
上海の母子3329組を対象に、妊娠初期と後期に妊婦の睡眠パターンをPittsburgh Sleep Quality Indexと客観的測定により評価。
子孫の身体的成長はボディマス指数Zスコア(BAZ)、キャッチアップ成長、および過体重/肥満によって評価。
妊娠初期の母親の夜間睡眠時間≧8.5時間でGDMリスク上昇。
GDM群では睡眠時間が7.5時間未満または8.5時間以上の妊婦では、子孫の過体重/肥満のリスクがそれぞれ1.73倍および1.43倍に増加した。
GDMおよび子孫の体重過多/肥満のリスクを低減するためには、良好な妊娠期の睡眠パターンが必要と結論。
・妊娠中の睡眠パターンがGDMの発生に影響し、24カ月以内の子孫の成長と関連することを明らかにした。妊娠初期の睡眠時間8.5時間以上、または妊娠中の睡眠の質の低下から良好への変化はGDMのリスク上昇につながった。
・妊娠初期の母親の睡眠時間と24カ月以内の子孫の過体重/肥満のリスクにはU字型の関連があり、7.5~8.5時間が至適睡眠時間だった。
妊娠中の睡眠の質が悪いと子孫の太りすぎ/肥満リスクも高くなった。
・集計データの解析から、睡眠時間が短い女性(6-7時間)はGDMに罹患する可能性が高いことが示された。
・多くの研究で睡眠不足を7時間未満、睡眠過多を9時間以上と定義されている。
・健常成人の睡眠の質をコントロールした研究では、数日間の睡眠制限でインスリン感受性の著しい低下と耐糖能異常が起こることが分かっている。
妊婦の糖代謝と膵β細胞機能の適応的変化によるインスリン抵抗性は、妊娠初期から中期にかけて徐々に増加し始めるため、この時期の妊婦の糖代謝は、睡眠不足や睡眠の質の低下に特に脆弱な可能性がある。
ある大規模コホート研究では、睡眠の質が悪い妊婦は睡眠時間に関係なくGDMを発症しやすいと結論付けている。妊娠初期によく眠れた女性と比較して、睡眠の質が悪い女性は後年GDMを発症するリスクが77%増加。妊娠中期における睡眠の質には関連が認められなかった。
・本研究では妊娠初期から後期にかけて、GDM妊婦の睡眠の質の低下は体重過多/肥満の危険因子であること、一方、妊娠中に睡眠の質が低下から良好に変化すると、GDMではない妊婦の24ヶ月以内の子孫のキャッチアップ成長の危険性が減少することを明らかにした。
一般に母親の睡眠の質は妊娠初期に比べて妊娠後期に悪化し、その結果子孫の出生時体重が減少した。
・文献が少ないため、GDMの状態が異なる妊婦の睡眠パターンが幼少期の胎児の身体的成長の違いにつながるメカニズムをさらに探る必要がある。