○○を食べるとアレに良い、〇〇はこれに効く・・・と毎日いろんな情報が流れ込んでくる。
特にPlant-basedが流行り始めてから、植物由来のものであればなんでも効果的であるかのような誇張も多い。
当院の患者さんには実際に効能があるものに関しては資料をお渡ししているが、効能に疑問符がつくものの情報もブログで情報発信することで「無駄に試して損切り」する必要がなくなるので有益だろう。
今回のブログは、胃腸疾患における植物性成分の有効性を検討したレビューをまとめ、有効性のある成分とそうでないものを分けてみたい。
上部消化管(GI)症状を慢性的に経験する人は世界的に増加傾向にあり、世界の成人の約40%が機能性消化管障害(FGID)に苦しんでいる。
FGIDにおいて、上部消化管疾患は主な構成要素となっている。
上部消化管疾患の例として、びらん性食道炎、胃炎、消化性潰瘍がある。
また、上部消化管の機能障害には、逆流性食道炎、食道知覚過敏、食道運動障害、ディスペプシアが含まれる。
現在、FGIDは腸脳相関障害(DGBI)として分類されている。
上部消化管のDGBIには、胸やけ、逆流、消化不良、吐き気、嘔吐、嚥下障害、膨満感、食欲不振、早期満腹感、吐き気または嘔吐を伴う/伴わない心窩部痛及び腹痛、非心臓性胸痛(NCCP)を特徴とする機能性ディスペプシア(FD)が含まれる。
機能性GI疾患に対する治療法には、H2受容体拮抗薬(H2RA)、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗うつ薬、プロキネティクスなどが選択肢となるが、より自然由来の製品への関心が高まっている。
リンクのレビューは、上部消化管疾患および症状おける食物繊維を含む植物性成分および非植物性成分(以下、「栄養成分」)の使用に関する臨床的証拠およびその他のデータの信頼性を評価することを目的としたもの。
Embase、Medline、Derwent drug file、ToXfile、PubMedの各データベースで、栄養成分および上部消化管の健康に関する検索語を用いて文献検索を行い、各成分の手動検索も行っている。
検索の結果、9つの成分を含む16のヒト臨床研究が評価された。
それらの研究で注目された製品は、食物繊維とその組み合わせを含む植物性成分と、非植物性抽出物のカテゴリーに分類されていた。
生姜やペパーミントとキャラウェイオイルの組み合わせなど、確実な科学的根拠がある成分
メラトニンやマリンアルギン酸など、中程度の根拠しかない成分
ガラクトマンナン、フェヌグリーク、亜鉛-L-カルノシンなどエビデンス強度が限られている成分
が明らかになった。
・食物繊維
高GI機能に貢献するフェヌグリークとガラクトマンナンについて。
フェヌグリークは多様な生物活性化合物で構成され、中でも水溶性食物繊維のガラクトマンナンは胸焼けやGERD症状の軽減に有効な成分であると過去の研究で示唆されているが、それらの研究デザインは精密さに欠けるため、フェヌグリークとガラクトマンナン単体の有効性について結論を出すのは困難とされている。
フェヌグリークとその成分であるガラクトマンナンは上部消化管の症状の管理に有望であると思われるがさらなる調査が必要。
・マリンアルギン酸
マリンアルギン酸は海藻の抽出物で、GERD症状を緩和することが示唆されている。
最近のシステマティックレビューでは、GERD症状緩和の有効性の観点から10のRCTを評価し、7件がMAに含まれた。
的分析では、アルギン酸がプラセボや制酸剤よりも優れた結果を示したが、プール分析では胸焼け、逆流、消化不良のスコアの変化の差は有意でないことが明らかにされた。
同様に、アルギン酸とPPIとの併用療法とPPI単独療法を検討した論文のプール解析では、胸焼け、逆流、消化不良のスコアの変化に有意差は認められなかった。
アルギン酸とPPIを比較した論文は異質だったためMAには含まれず、記述的分析では群間の転帰に差は見られなかった。
エビデンスの質に関する評価は満足のいくものであった。
・その他の植物成分
9件の研究で4つの「その他の」植物成分(アロエベラ(A. vera)、ショウガ、甘草、パパイヤ)と上部消化管状態への影響について調査している。
エビデンスが限られている「その他の」植物成分(リンゴ酢(ACV)、カルダモン、フェンネル)、またd-リモネン)についても検討している。
・アロエベラ
A. veraは、潰瘍原性およびGERD関連症状を緩和するのに役立つと考えられている。
2015年のRCTでは、ラニチジン錠剤(150mg/日2回)およびオメプラゾールカプセル(20mg/日1回)と比較した場合、被験者のGERD症状の軽減にA. veraシロップ(10mL/日1回)が同様に有効であった。
2016年に実施された試験では、過去の硫黄マスタードガスへの暴露に苦しむイラン人男性退役軍人において、パントプラゾール療法への補助としてのA. veraシロップ(それぞれ5mL1日2回および40mg1日1回)が、パントプラゾール(40mg1日1回)単独と比較してGERD症状を有意に軽減することが明らかになった。
酸化ストレスと炎症がGERDの病因に関与している可能性があるため、メカニズムの可能性としてA. veraの抗酸化活性を指摘する声もある。
In vitroおよび動物実験では、A. veraの投与により、過酸化脂質、肝・脂肪マーカー、ネクローシスの減少が観察されている。
・リンゴ酢(Apple Cider Vinegar)
リンゴ酢(ACV)の食後血糖値反応の低下、特に胃の運動を遅くすることによる有用性を示しているいくつかの研究がある。しかし、これらの研究は小規模であり、研究結果にはばらつきがある。
・カルダモン
2つの動物実験では、カルダモンエキスがラットの誘発性胃潰瘍の効果的な治療法として観察され、粘膜バリアの直接保護と平滑筋弛緩を促進する効果が報告された。
・D-リモネン
D-リモネンは柑橘類の精油から抽出され、多くの動物およびin vitro試験で胃の保護およびGERD改善剤としての役割が強調されている。
米国特許の下で行われた臨床研究(二件)では、慢性的な胸焼けやGERDに悩む成人がd-リモネンの補給によって有意に改善したことが判明している。しかしそのうちの一件のエビデンスの質は低かった。
・フェンネル
マウス研究では、フェンネル油の化学誘導体であるアネトールが胃排出を増加させることが示さている。
・ジンジャー
生姜は腸のコリン作動性M3およびセロトニン作動性5-HT3受容体の阻害により、吐き気および嘔吐の減少、胃の運動の増加、それに伴う通過時間の短縮をもたらすとされている。
生姜に関する2つのシステマティックレビュー(SR)のうち一件では、1日1500mgのショウガ投与によって妊娠による吐き気と嘔吐(PINV)が緩和されたが、証拠が少ないため他のGI症状について同様の推奨をする前にさらなる調査が必要であると結論付けている。
エビデンスの質も低いものであった。
もう一件のSRは、生姜の臨床使用に焦点を当てた109件のRCTをレビューし、そのうち47件は生姜の制吐機能、3件は胃排出機能に関するものであった。
報告された10件のRCTすべてが一貫したデータをもたらしたため、PINVには1500mg以下のショウガの分割投与を推奨できるが、化学療法による吐き気と嘔吐(CINV)および術後の吐き気と嘔吐(PONV)については結果が矛盾しており、結果を確認するにはさらに試験が必要と結論付けている。
エビデンスの質は十分であると結論。
生姜は胸焼け、吐き気、早期満腹感などの症状の管理に有望であるが、一貫した生姜エキスの組成と投与量についてコンセンサスを得るためには、より大規模で適切にデザインされた臨床試験が必要。
他の研究では、食欲不振-カヘキシア症候群の進行がん患者において、ショウガ(1日あたり1650 mg)が運動障害、逆流、潰瘍様症状などの上部消化管症状、ならびに吐き気および食欲不振を有意に改善することが判明した。
進行がん患者における消化不良様症状への生姜の適用を確認するにはさらなる試験が必要。
・甘草
甘草が機能性ディスペプシア(FD)に有効である根拠となる臨床試験はほとんどない。
動物実験では、甘草の抗潰瘍活性はフリーラジカル消去、粘液生成、プロスタグランジン阻害に起因するとされている 。
上部消化管症状に対する甘草の効果を調べた臨床研究が2件確認されている。
そのうち一件は、甘草根粉末と甘草代用植物(T. nummularia)(いずれも2g、1日3回投与)が、吐き気、喉の灼熱感や胸やけなどの主訴を持つ被験者の消化不良症状を有意に軽減する効果があると報告している。
もう一件の研究では、FD被験者にフラボノイドを豊富に含む甘草抽出物(75mg、1日2回)を30日間投与、プラセボと比較して消化不良症状およびQoLに著しい改善が認められている。
・パパイヤ
動物およびin vitro研究では、パパイヤには活性酸素を消去し、ヒスタミンの減少を通じて胃の分泌を抑制する能力があり 、胃平滑筋に直接作用してその運動に影響を与えることが示唆されている。
便秘、胸焼け、過敏性腸症候群(IBS)と慢性胃炎の症状などのGI機能障害を持つ被験者を対象にパパイヤ抽出物を調べた研究では、パパイヤ独自のブレンド(1日20mL、パパイン活性が高くなるように標準化)が胸焼け症状を非有意に改善することが判明した。
他の研究でも、パパイヤの粉ミルク(20g、1日2回;パパイヤとオーツを含む粉ミルク)を補給した患者において、プラセボと比較して上部消化管愁訴の改善が観察されたが、これらの違いは有意ではなかったとしている。
・組み合わせ
様々な植物成分の組み合わせと上部消化管症状への影響の関係を調べた研究が2件。
さらに、ペパーミントオイルとキャラウェイオイル(POCO)の有効性をまとめたSR。
一件の研究では、少なくとも3ヶ月間、週に1回以上、1つ以上の上部および/または下部GI症状を経験している成人を対象に、5g/日、10g/日、0~10g/日の「選択」でクルクミン、A. vera、スリッパーエルム、グアーガム、ペクチン、ペパーミントオイルおよびグルタミンの4週間連続投与の影響を検討している。その結果、消化不良、胸やけ、逆流、吐き気、QoLの有意な改善、GERD症状の頻度と発生率の減少が認められた。
しかし、副作用として重度の腹部膨満感と便秘が報告された。
研究者はエビデンスの質からさらなる研究が必要と述べている。
・ペパーミントオイル、キャラウェイオイル
ペパーミントオイル(PO)は、上部消化管疾患への可能性が長年研究されている。
FGIDに対するペパーミントの効果を検討した最近の論文では、FDに使用する場合POCOまたは他の製剤として、常に追加成分と組み合わせて使用されていることが判明した。
3つのRCTは異種の組み合わせと結果で構成されており、2つはFD症状の改善、もう1つは介入とプラセボの間に有意差はないことを示すものであった。
最近の別のSR-MAでもFDにおけるPOCOの有効性が検討されており、4週間で異種処方を検討した5つのRCTが含まれていた。
Cochrane Collaborationのバイアスリスク評価ツールを用いておりエビデンスの質は満足できるものだった。
結論として、POCOが統計的に有意なFD症状の全体的改善と心窩部痛の改善をもたらすことを見いだした。一般的な分割投与は、1日2回、1カプセル90mg POおよび50mg COを投与。
FDに対するPOCOの効果の作用機序は不明だが、POCOがラットにおける炎症後の内臓知覚過敏を調節することが観察されていることと関係するのかもしれない。
・胸焼け、GERD、および胃の状態に対する非植物性成分
上部消化管疾患に対する非植物性栄養成分である活性炭(AC)と亜鉛-l-カルノシン(ZnC)の影響を調査した2件の研究。メラトニンに特化した最近の研究。
・活性炭(AC)
一件の研究で、酸化マグネシウムを含むまたは含まないACおよびシメチコンの2つの製剤により、FD症状がプラセボと比較して有意に減少したことが明らかになった。
ACに関する研究の多くは、下部消化管におけるガスとの関連性を検討しているがこれらの試験のほとんどは1990年代に実施されたもので比較的低クオリティであり、矛盾した結果を示すものが多い。
AC単独の有効性を評価するためには、より広範な研究を実施する必要がある。
・メラトニン
睡眠補助としてのメラトニンの使用は確立されているが、GERDやFDにおける潜在的な役割も示唆されている。
ある試験では、FD被験者において、メラトニン(5mg、1日1回就寝時)対プラセボの役割を検討し、メラトニン群の56.6%で消化不良症状が完全に消失し、30%で部分的に消失したが、プラセボ群の大半(93.3%)では改善が見られなかったことが示されている。
さらに、メラトニン摂取群はプラセボ群よりも、アルカリ性緩和錠剤の使用量が有意に少なかった。
メラトニンの上部消化管疾患に対する有効性のメカニズムについては、動物実験においてHClとペプシンの分泌を減少させたことや、ガストリン放出によってLESの収縮活性を高めることにより逆流が緩和されることなどが挙げられている。
・亜鉛-L-カルノシン
ZnCは、亜鉛とL-カルノシンのキレート化合物でポラプレジンクとも呼ばれ、日本では胃粘膜保護剤として古くから使用されてきた。
過去のRCTにおいて、ZnC(75mgまたは150mg、1日2回)と3剤併用療法(オメプラゾール(20mg)、アモキシシリン(1g)、クラリスロマイシン(500mg)、それぞれ1日2回)または3剤単独療法の3群すべてが、食道裂孔ヘルニアの症状を著しく軽減する効果があることが明らかになっている。
また、pylori陽性胃炎患者の腹痛、酸逆流、腹鳴、胸焼け、腹部膨満感、悪心、嘔吐などの症状も有意に軽減した。
このレビューでは、上部消化管疾患の管理に確実なエビデンスがある栄養成分と、伝統的に上部消化管疾患と関連しているものの、現時点では重要なデータがない栄養成分の両方を取り上げている。
確実なエビデンスがあるものとして、
・妊娠による吐き気と嘔吐に効くショウガ
・機能性ディスペプシアに効くペパーミントとキャラウェイオイル
メラトニンとマリンアルギン酸はGERDへの今後の応用が期待されている。
フェヌグリーク、ガラクトマンナン、zinc-l-carnosineは、さらなる研究が期待される分野。
A.ヴェラ、パパイヤ、甘草は、それぞれ少数の試験に参加しているが、ほとんどが組み合わせの形で存在しており、各成分を単独でさらに調査すること必要。
このレビューで検討された残りの栄養成分は実質的なデータを欠いている。