本日のブログは、妊娠適齢期の女性における微量栄養素の摂取と肥満の関係を調査した中国の研究をまとめてみたい。
妊娠適齢期の女性にとって、栄養状態は妊娠の成功や良好な妊娠経過、子孫の発育に密接に関係し、将来的に中高年女性の骨粗鬆症や鉄欠乏症などの栄養疾患の発生にも密接に関係するため重要なテーマ。
コロナ禍での生活様式の変化も相まって世界的に肥満率が増加し、子宮内膜がんや乳がんなど女性が診断されるがんの約55%は過体重・肥満に関連すると考えられている中で、栄養摂取と肥満の関係を調査したデータは貴重だろう。
過去の研究では、微量栄養素(ビタミンやミネラルを含む)がエネルギー代謝や血中脂質代謝に重要な役割を果たすことが明らかにされている。
例えば、いくつかのミネラルやビタミンはUCP1-3 mRNAの発現を促進してミトコンドリア機能を向上させ、熱発生をアップレギュレートし、脂肪分解を促進し、エネルギー消費を増加させる。
さらに、微量栄養素は中枢神経系における神経伝達物質を合成および調節し、食欲の調節に影響を与えると考えられ、女性の体重減少に伴う食欲の減衰を抑制する可能性がある。
これまでの研究で、肥満患者において、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ナイアシン、カルシウム、鉄、亜鉛の摂取量が概して不足していることが分かっている。
微量栄養素不足が、人体の疲労、運動量の低下、エネルギー消費量の減少を引き起こし、それが肥満につながることと関係していると考えられる。
しかし現在、中国における妊娠適齢期女性の食事性微量栄養素の摂取量と過体重・肥満との関係に関する研究データはまだない。
リンクの研究は、18~49歳の非妊娠・非授乳中の中国人女性における食事性微量栄養素摂取量を評価し、食事性微量栄養素摂取量と過体重および肥満の関係を分析することを目的としたもの。
データは2015年中国成人慢性疾患・栄養調査(CACDNS 2015)から入手。
太りすぎ/肥満群ではビタミンA、ナイアシン、カルシウム、亜鉛の平均摂取量の中央値が、非太りすぎ/肥満群よりも低く、その差は統計的に有意だった。
多変量ロジスティック回帰分析により、ビタミンA摂取量、ナイアシン摂取量、亜鉛摂取量は女性の過体重/肥満の予防因子であり、ビタミンB2摂取量、ビタミンE摂取量は女性の過体重/肥満の危険因子であることが示された。
中国における18~49歳の非妊娠・非授乳中女性におけるほとんどの食事性微量栄養素摂取量が少なかった。
Dietary Micronutrient Status and Relation between Micronutrient Intakes and Overweight and Obesity among Non-Pregnant and Non-Lactating Women Aged 18 to 49 in China
・米国と日本の20歳以上の女性の微量栄養素摂取量と比較して、中国の18~49歳の非妊娠・非授乳中女性のビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、カルシウムの摂取量は少なく、鉄とナトリウムの摂取量は多く、亜鉛の摂取量は日本より多く、米国より少なかった。
ナイアシンと亜鉛の摂取量は基本的に十分だが、ビタミンEとナトリウムの摂取量が多く、他の微量栄養素の摂取量は不十分であることが示唆された。
・ビタミンA、ナイアシン、カルシウム、亜鉛の摂取量が過体重・肥満群において非過体重・肥満群より少なかった。ビタミンEとナトリウム摂取量は非過体重・肥満群で多く、これは複数の研究結果と一致している。
・ビタミンA、ナイアシン、亜鉛は女性の体重超過と肥満の保護因子であることがわかった。
ビタミンAは人体の正常な代謝と機能維持に必要な脂溶性ビタミンであり、体脂肪の調節機能に関与し、脂肪形成と脂質の蓄積に重要な役割を果たし、内臓脂肪、皮下脂肪、総脂肪を減らすことができる。
ナイアシンの不足は活性酸化物質の産生を増加させ、炎症反応を亢進させ、脂肪の産生を促進させる可能性がある。また、ナイアシンは脳の神経伝達物質の代謝に影響を与えることで食欲をコントロールし、食行動に影響を与えることで肥満につながる可能性がある。
亜鉛はレプチン合成の媒体となる可能性があり、亜鉛欠乏はレプチンの分泌を減少させるという研究結果もある。レプチンは食欲を抑え、エネルギー代謝効率を向上させ、脂肪と体重を減少させる。
さらに亜鉛欠乏はレプチン減少を招くだけでなく、味覚障害や偏食などを引き起こし肥満の原因となる。
・非妊娠・非授乳中の過体重・肥満女性は、植物性食品、特にビタミンA、ナイアシン、亜鉛を豊富に含む動物の内臓、魚やエビ、卵黄、乳製品、全粒穀物の摂取量を増やすことが推奨される。
・この研究では、ビタミンE摂取が過体重や肥満リスクと正の相関があることが示された。これは、中国人の場合、ビタミンEが主に食用油から摂取されていることも関係している。中国の18歳から49歳の非妊娠・非授乳中女性では、食用油からのビタミンE摂取の割合が62.4%だった。
「中国国民の栄養と慢性疾患(2020年)報告」によると、食用油の摂取量が増え続けており、食用油の過剰摂取は肥満のリスクを高めるとされている。
結論
食事性ビタミンA、ナイアシン、亜鉛の摂取量は、過体重および肥満のリスクと負の相関があり、ビタミンB2およびEの摂取量は過体重および肥満と正の相関があった。
中国の18-49歳の非妊娠・非授乳期の過体重・肥満女性は、食用油の摂取量を減らし、植物性食品、特にビタミンA、ナイアシン、亜鉛を豊富に含む動物の内臓、魚やエビ、卵黄、乳製品、全粒穀物の摂取量を増やすことが推奨される。