コロナ禍における自粛生活で子供達の身体活動量は低下し、肥満、精神疾患、中長期的な成人病の発症リスクが大幅に増加した。
また、子供達の他者とのコミュニケーション能力も低下しているため、我が国の団体競技レベルは今後低下する一方になる可能性がある。
さらに青少年の肥満は、一念発起して肥満解消のために始めた運動においてスポーツ傷害の発生リスクを高める危険因子となる。
現在の肥満と運動不足の急激な増加はコロナ禍の生活様式に起因する可能性が高いが、それ以前からの肥満に関しては母親から大きな影響を受けている可能性がある。
最近のシステマティックレビューでは、妊娠前に母親が肥満である場合子どもの肥満確率が264%増加することが確認されている。
身体活動についても同様の結果が観察されている。
妊娠前に母親の身体活動レベルが高いことは、5歳時の子供の体脂肪率の低さと関連している可能性が報告されている。
しかし、身体活動とBMIは相関連することが多いにもかかわらず、母親の身体活動およびBMIと小児期のスポーツ傷害リスクとの関連を調べた研究はまだない。
小児肥満がスポーツ傷害リスクを高めるというエビデンスはあるものの、妊娠前の母親の肥満度や身体活動が子孫のスポーツ傷害の発生に影響するかはまだ不明。
リンクの研究は、母親のBMIと身体活動が、子供のスポーツ傷害発生率と相関する可能性があると仮定して、母親の妊娠前のBMIおよび身体活動レベルと、7歳時点での小児スポーツ傷害発生率との関連性を分析したもの。
妊娠前の母親4811人とその7歳の子ども3311人を対象。
母親の身体測定(身長、体重、肥満度)、身体活動時間、教育レベルを記録。
スポーツ傷害は7歳時点の子どもが過去1年間に報告した傷害とした。
妊娠前の母親が過体重/肥満であった子は7歳時点でスポーツ傷害を報告する確率が2.04倍高かった。低体重の母親は、フォローアップ時に子供がスポーツ傷害を報告するオッズが74%減少した。
スポーツ傷害を報告するリスクは、母親が妊娠前に過体重/肥満であった子どもで大きいが、母親の低体重と身体活動時間増加の両方がリスクを低下させると結論。
Maternal Pre-Pregnancy Nutritional Status and Physical Activity Levels and a Sports Injury Reported in Children: A Seven-Year Follow-Up Study
母親の肥満度や身体活動と子孫のスポーツ傷害との関連性を検討した初めての研究。
主な結果
・妊娠前の母親が低体重の場合子どもが7歳時のスポーツ傷害リスクは減少、過体重/肥満であった場合子どもが7歳時のスポーツ傷害リスクは増加。
・妊娠前の母親の運動量が多いと、子どもがスポーツ傷害を訴える確率が低い。
・BMIと身体活動を同時観察した場合、低体重の状態と身体活動により多くの時間を費やしている状態の両方において7歳時に子どものスポーツ障害リスクを減少させる、一方、過体重/肥満の状態はリスクを増加させる。
肥満の人では膝や足首に関連する傷害リスクが増加する傾向がある。
肥満児では神経筋と姿勢の制御が損なわれていることが確認されており 、体重を支える骨格組織の生体力学的負荷の変化や過剰な脂肪による全身性炎症の増加を伴う。
メタアナリシスを伴う最新のシステマティックレビューでは、研究された38の論文のうち、16が下肢損傷の有意な危険因子として高脂肪をあげている。
今回の研究は、妊娠前の母親の身体活動レベルの向上が子孫が7歳のときに報告するスポーツ傷害のリスク低下につながるという、これまでのエビデンスとやや矛盾する新たなエビデンスを提供するものだった。
2002年の米国産科婦人科学会のガイドラインでは、女性は怪我のリスクの低いレクリエーション活動に参加し、激しいチームスポーツやラケットスポーツなどの接触性の高い活動は避けるようにすることが推奨されている。
今回のデータは、体重過多/肥満で身体活動レベルが低い母親を対象とする特別な介入によって、学校に通う子どもたちの将来のスポーツ傷害を予防できる可能性を示唆している。