本日のブログは、更年期症状に対するラクトバチルス・ガセリCP2305(以下、CP2305)の効果を評価した興味深い研究をまとめてみたい。
CP2305は、腸内機能および微生物叢に有益な効果を示し、心理的ストレスに対する抵抗力を高めるパラプロバイオティクス。
もともと健康なボランティアの便から分離したパラプロバイオティクスで、ストレス緩和活性を示すことが知られている。
CP2305を含む微生物の集合体は腸内細菌叢(GM)と呼ばれ、宿主と共進化してきた。
重要な相互作用のひとつに腸-脳軸があり、腸の恒常性と脳機能の両方を維持している。
さらにGMは、免疫経路、内分泌経路、神経経路、および視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸や視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸によっても制御されている。
HPA軸とHPG軸の両方が相互に作用して、女性の精神的なストレス反応を調節していることが明らかになっている。
例として、月経周期中の性腺ホルモンであるエストラジオール(E2)の変動とHPA活性が挙げられる。
HPG軸とHPA軸のクロストークは、異常なストレス反応や精神神経疾患を引き起こす可能性がある。
閉経を迎えた更年期と呼ばれる時期は数年続くこともあり、女性はホルモンレベルの変動に関連した症状を経験する。卵巣が小さくなるため月経周期が不規則になり、泌尿器系症状が優位になる。
さらに、循環器系や精神障害に関連する症状が現れる場合もある。
国際更年期学会(IMS)は、「生殖老化ワークショップ(STRAW)」を提唱し、閉経までの生殖器加齢の各ステージを定義している。
閉経前の5年間と閉経後の5年間を更年期と呼び、閉経前の過渡期を “更年期移行期 “と呼ぶ。
この段階では、自律神経活動のバランスを崩す症状と精神症状が主訴となる。
これらの症状の原因は完全には解明されていないが、最近の研究では、腸内細菌叢が腸の恒常性を維持する役割を通じてE2代謝に関与していることが示唆されている。
過去の研究では、CP2305を12週間毎日摂取したところ、国家資格試験受験に伴うストレス性精神・身体症状の軽減、ストレスによる唾液中コルチゾール濃度の変化の抑制、末梢血中のストレス応答性マイクロRNAの発現上昇が確認されたことから、CP2305の摂取は中枢神経系機能に影響を与え、HPA軸を調節する可能性があり、心理的ストレスに対する抵抗力を高める可能性が示唆された。
さらに、CP2305の1日摂取により、過敏性腸症候群患者の臨床症状の改善、消化管内細菌叢組成の変化、月経前不快感の軽減、自律神経活動の調節による睡眠の質の向上が報告されている。
リンクの研究は、それらの先行研究を踏まえてCP2305摂取がHPG軸に与える影響と更年期に伴う軽度の症状に対する効果を解析することを目的とたもの。
40~60歳の女性80名を対象に、CP2305またはプラセボ錠を連続した6回の月経サイクルで摂取。
評価は、簡略化更年期指数(SMI)とGreene Climacteric Scale(GCS)の有効な質問票による更年期症状の観察に基づいて行われた。
結果
CP2305はプラセボと比較して、SMI総合スコア、SMI血管運動スコア、SMI心理スコア、GCS総合スコア、GCS体性スコア、GCS血管運動スコアに有意な緩和を与えた。
SMI total scoreの症状が緩和された女性の割合は、CP2305群では40名中30名で75.0%、プラセボ群では40名中22名で55.0%。
Effects of Lactobacillus gasseri CP2305 on Mild Menopausal Symptoms in Middle-Aged Women
・解析の結果、CP2305の毎日の摂取は生殖ホルモンの卵胞期レベルには影響を与えず、心理的および血管運動性の更年期症状を有意に改善することが示唆された。
SMIスコアで最も多いイライラ、抑うつ、不眠、めまいなどの精神症状や、ほてり、悪寒、過度の発汗、動悸などの血管運動症状が緩和される可能性が示された。
・日本の女性が経験する特徴的な症状は、肩こり、記憶力の低下、イライラ、抑うつなどの精神症状。
CP2305は、日本の更年期女性に特徴的な症状を抑制する可能性がある。
・閉経前症状に関する研究では、CP2305の摂取により女性特有の自律神経症状や精神症状が緩和される可能性が示唆された。
・CP2305と月経前症状に関する研究では、CP2305は卵胞期には影響を及ぼさないが、黄体期の女性ホルモンの変動に影響を及ぼすことが示された。
CP2305は女性ホルモンの変動が見られる時期(排卵期から黄体期)に最も修復効果が高く、基本的な定常状態には影響を与えない可能性が示唆された。
更年期における精神症状には、E2濃度の大きな変動が関与している可能性が示唆されている。
E2は卵胞期よりも黄体期に大きく変動することから、CP2305は基礎定常期よりも黄体期のE2値の変動を抑制することにより症状を緩和する可能性がある。
・CP2305が精神症状を抑制するもう一つの経路は、腸内細菌叢によって産生される循環性の外因性E2。腸内細菌叢は、β-グルクロニダーゼ(E2を活性型に戻す酵素)の分泌を介して、E2を調節する。
CP2305は腸内細菌叢を調節し、外因性のE2またはトリプトファン代謝産物を増加させる可能性がある。
・CP2305の経口投与は自律神経活動に影響を与えることが示唆されていることから、CP2305が体温中枢に作用し、血管運動症状の出現を抑制している可能性が考えられる。
・腸内細菌によって活性化された植物性エストロゲンは、外因性エストロゲンとして作用し、内因性エストロゲンの加齢による減少を補助する。宿主の恒常性維持機構であるHPA軸とHPG軸は相互に作用し、過剰なストレス応答は内因性エストロゲンの産生を低下させる。
・オメガ3脂肪酸を多く含む月見草オイルは、更年期の精神症状を改善することが報告されている。
オメガ3は、免疫細胞に直接作用し、エイコサノイド合成に間接的に影響を与えることで抗炎症作用を発揮する。
・地中海食と植物性栄養素や脂質をプレバイオティクスやパラプロバイオティクスなどの腸内環境改善化合物と組み合わせたプラントベース食は、更年期における魅力的な食事戦略である。
結論
ラクトバチルス・ガセリCP2305の摂取により、更年期女性特有の軽度の精神症状が改善され、最も多い血管運動症状であるほてりが改善されることが示された。