閉経後骨粗鬆症(PMO)は65歳以上の女性の約27%が罹患するといわれ、エストロゲン減少によって骨吸収が骨形成を上回り、骨量が減少することで発症する。
FDAは骨粗鬆症の治療薬を承認しているが、それら薬剤の処方は副作用に対する懸念などから過去10年間で減少しており、近年は安全で効果的な骨粗鬆症予防のための栄養療法に注目が集まっている。
カシス(BC)は、食用として用いられるベリー類の中で最も多くのアントシアニン(ACN)を含んでいる。ACNはポリフェノール化合物の一種で、強力な抗酸化・抗炎症化合物として心血管疾患、肥満、糖尿病、神経変性疾患、がん、骨量減少などの慢性疾患に対する治療効果が示唆されている。
ACNは骨芽細胞遺伝子のアップレギュレーションや骨芽細胞の増殖促進を通じて骨形成に有益な役割を果たす一方、活性酸素種(ROS)の産生を減少させたり、核因子-κB(NF-κB)経路に影響を及ぼすなど、様々なメカニズムを通じた破骨細胞遺伝子のダウンレギュレーションにも重要な役割を果たしている。
また、ACNの健康効果は腸内細菌叢の調節と関連している。腸内細菌叢はACN代謝に重要な役割を果たし、骨の健康に影響を与える代謝産物を産生する。PMOに関連する骨喪失は、腸内細菌叢が影響を及ぼす可能性のある宿主免疫と関連していることが示されており、したがって、腸はPMO予防および治療の潜在的な標的となる可能性がある。
腸内細菌叢は短鎖カルボン酸(SCCA)など有益な代謝産物を産生し、腸と骨の重要なコネクターとして関与している。SCCAは細菌叢によって難消化性炭水化物やアミノ酸が発酵された後に産生される酢酸、プロピオン酸、酪酸などの代謝物で、ヒト大腸に存在するSCCAの約90~95%を占める。
BCはラットにおいてプロピオン酸と酪酸の生成を増加させることが示されており、全体としてACNは細菌叢形成に寄与し、SCCA組成に影響を及ぼすと同時にプレバイオティクス剤として機能すると考えられている。
過去のヒト対象試験では、BCを6ヵ月間補給すると全身の骨密度(BMD)減少が抑制され、骨形成バイオマーカーである血清中1型プロコラーゲンのアミノ末端プロペプチド(P1NP)濃度が有意に上昇することがわかっている。
また、高BC群ではBMDの変化と相関する6つの細菌が同定され、BCの骨保護作用が腸-骨軸を介して推進されている可能性が示唆されている。
リンクの研究は、微生物由来SCCAおよび植物性エストロゲン代謝物の濃度に対するBC ACNの影響を評価し、次に全身BMDおよび骨代謝バイオマーカーの6ヵ月間の変化との関連性を評価したもの。
45~60歳の閉経前後および早期閉経女性37名から、ランダム化比較試験の糞便および血液サンプルを採取し、プラセボカプセル1個(対照)、BC392mg(低BC)、BC784mg(高BC)を6ヵ月間毎日摂取する3つの治療群に無作為に割り付けた。
【結果】
ベースライン時の酢酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸に有意差が認められた。
対照群では、イソ酪酸がベースライン(0ヵ月)から6ヵ月にかけて有意に減少し、高BC群では6ヵ月時点で対照群より有意に高濃度だった。
酪酸は高BC群で低BC群より6ヵ月後の濃度が有意に高かった。
カプロン酸とイソ酪酸の6ヵ月間の変化は、全身BMDの変化と弱い相関を示した。
イソ吉草酸および吉草酸は、それぞれBALPおよびOPGと弱い相関を示した。
エンテロジオールはBALPと正の相関を示し、エンテロラクトンはオステオカルシンと正の相関、スクレロスチンと負の相関を示した。
【結論】
BCは微生物由来SCCAおよび植物エストロゲン代謝産物を調節することで、閉経後の骨減少を抑制する可能性が示唆された。
・過去のヒト対象試験では、BC投与により全身BMDが増加し、P1NPが増加することから、BCが骨喪失を抑制することが報告されている。この研究でも、BCがSCCAと植物エストロゲンの代謝産物を調節することでこれらの骨保護作用を発揮する可能性があることがわかった。
・6ヵ月間の介入後に酪酸濃度が高BC群で低BC群より有意に高く、対照群よりわずかに高かった。ACN摂取と腸内健常性マーカーへの影響に関する最近のメタ分析では、この研究と一致するように、4週間以上の介入期間において酢酸濃度にかなりの増加が見られることが発見されている。共通して、SCCA濃度を高めるにはACN投与期間を長くし、投与量が多いほど効果的であることが示された。
・酢酸およびプロピオン酸は骨の健康と関連して広く研究されているSCCAのひとつで、マウス研究で骨吸収を抑制することが示されている。閉経後の骨量減少モデルを用いたin vivo研究では、酪酸と酢酸の両方が破骨細胞の分化を抑制することで骨代謝を調節し、骨吸収を抑えることがわかっている。さらに酪酸は、受容体活性化核因子-κBリガンド(RANKL)刺激後はTRAF6とNFATc1を有意に抑制することも発見され、このことは酪酸の増加が破骨細胞形成性シグナル伝達を減少させることでBCの骨保護作用に寄与している可能性を示唆している。
・過去の研究で、吉草酸は破骨細胞様細胞の分化抑制、およびアルカリホスファターゼ活性(ALP)の上昇を伴う前骨芽細胞から骨芽細胞への分化の亢進と関連することがわかっていた。また、吉草酸はRANKLのサブユニットで、多くの炎症性疾患の発症に重要な役割を果たすRELAタンパク質の産生を減少させる。今回の研究で吉草酸とRANKLや他の炎症性サイトカインとの間に関連は認められなかったが、OPGと吉草酸には弱い正の相関が認められた。
OPGは破骨細胞におけるRANKLのデコイ受容体としての役割を果たすために骨のターンオーバー中に分泌されるタンパク質で、RANKと競合してRANKLに結合する可溶性デコイ受容体として作用する。RANKLは破骨細胞新生を抑制するため、破骨細胞抑制因子として知られている。しかし、エストロゲン欠乏症を含む炎症状態ではB細胞の調節異常によってB細胞のRANKL発現が亢進し、OPG発現が低下して破骨細胞新生が過剰になり、その結果骨吸収が起こる。
・BCの用量依存的にRuminococcousの存在量が増加することがわかっている。ルミノコッカスは高BC群における全身BMD変化と相関する6つの細菌のうちの1つであった。この研究では、ルミノコッカスがエンテロジオールとエンテロラクトンの産生に関与していると推定された。過去の文献から、エンテロジオールとエンテロラクトンの両方がALPとオステオカルシンに影響を及ぼすことを示唆するいくつかの証拠が得られている。ヒト骨芽細胞様細胞株(MG-63細胞)に対するエンテロジオールとエンテロラクトンの影響を評価した研究では、両エンテロリグナンは低濃度ではMG-63細胞の生存率とALP活性を有意に増加させ、高濃度ではオステオカルシンのmRNA発現を増加させることがわかっている。この研究ではエンテロラクトンとエンテロジオールは、低用量では細胞増殖とALP活性が誘導され、高用量では阻害作用が見られるという、骨芽細胞様細胞に対する二相性の作用を持つ可能性が示唆された。乳がん細胞においても、エンテロリグナンが二相性の効果を示すことを報告した研究も存在する。
・・・腸-骨軸は面白い概念ですが、まだまだ不明な点も多いためこれから深掘りしていくのが楽しみな分野。いろいろ難しい言葉が並んでしまいましたが、閉経移行期〜閉経後初期の方はひとまず、骨粗しょう症予防にはアントシアニンの摂取と腸内細菌の健常性を保つことがどうやら大事だということを頭の片隅に置いていただければと思います。
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