治療中お話を伺っていると異常子宮出血(AUB)でお悩みの方が多い。
なかなか完治と言うわけにもいかず、定期的に訪れる不正出血に対する患者さんの気苦労は察するに余りある。
近年の研究から、AUBの構造的および非構造的原因と心血管系疾患発症の間の病態生理学的類似性に関する知見が蓄積されている。多くの文献で、高血圧、肥満、メタボリックシンドロームと平滑筋腫を関連付ける確立された危険因子が示されており、動脈硬化と平滑筋腫の機序が類似していることを示す証拠もある。
同様に、インスリン抵抗性、肥満などの代謝異常因子および炎症因子は子宮内膜ポリープの発生と関連していることも報告されている。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における心血管系疾患リスク軽減のための第一選択は運動と減量である。
上記の知見から、心血管系疾患と異常子宮出血の原因、特に平滑筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜機能障害や排卵機能障害との間の類似した病理学的機序を結びつけることができる。
リンクのデータは、AUBの構造的および排卵的原因が心血管系疾患と病態生理を共有する経路を比較し、治療的糖質制限(TCR)が代謝性疾患を治療する主なメカニズムについて記述している。そして、上記の一般的な婦人科疾患マネジメントにおいてTCRがいかに予防的手段であり治療的方法であるかを論じている。
AUB – 平滑筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜機能不全の構造的原因となる全身性内皮炎症
・平滑筋内皮の炎症が心血管系の末端器官疾患を引き起こすことはよく知られている。
微小循環におけるこの病理学的変化は、すべての脈管性臓器における末端臓器障害を引き起こす。末端臓器の特異的損傷の例には、心筋梗塞、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪性肝疾患、糖尿病性網膜症などがある。
AUBの多くの原因は同様の病態生理学的起源に由来する。
・子宮内膜・子宮頸管ポリープ(AUB-P)、平滑筋腫(AUB-L)、子宮腺筋症(AUB-A)、排卵機能不全(AUB-O)は、妊娠適齢期女性における月経不順の最も一般的な原因で、これらの疾患の発症の病態生理を検討すると、インスリン抵抗性の影響、平滑筋内皮炎症の発症、またはその両方が原因と考えられる。
・子宮内膜には基底動脈とらせん動脈によって血管が張り巡らされ、後者は子宮内膜の機能層にまで伸びている。これらの血管床はインスリン抵抗性と代謝機能障害に関連した内皮機能障害を起こしやすい。2022年の研究では、不正出血のある女性ではインスリン抵抗性の有病率が高いことが示されている。この研究では、肥満度とウエスト/ヒップ比の増加が不正出血のある女性におけるインスリン抵抗性の独立した予測因子であることも示された。
・子宮内膜レベルでの月経低酸素および虚血イベントは、平滑筋の増殖をもたらす遺伝子異常を引き起こして子宮筋層過形成につながる。内皮傷害は血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)などの血管新生増殖因子の活性化につながり、結果的に子宮平滑筋腫を生じる。
・肥満は慢性炎症とアディポカイン分泌を特徴とし、アディポカインの上昇は平滑筋腫の発生で観察される。
・子宮内膜ポリープ発症の病態生理学はほとんど不明だが、2つの主要経路であるエストロゲン依存性の刺激と慢性炎症が推定されている。皮下脂肪組織から分泌される過剰レベルのエストロゲンは子宮内膜を刺激し、ポリープ産生を促進する。
・2013年の研究では、トリプターゼ、キマーゼ、c-KITを発現する肥満細胞が、子宮内膜ポリープのない患者の子宮内膜と比較して、子宮内膜ポリープおよび隣接・遠隔子宮内膜で高濃度に認められたことが指摘されている。これは、子宮内膜ポリープが炎症性病変であるという仮説を支持するものである。トリプターゼとキマーゼは肥満細胞から分泌され、c-KITレセプターは活性化されて内皮細胞の増殖と細胞外マトリックスの分解を刺激し、血管新生に寄与する。
過剰レベルの活性酸素種と肥満細胞は子宮内膜の正常な発達を妨げる。
肥満細胞の活性化が、子宮内膜ポリープに加えて鼻ポリープや大腸ポリープにも存在することが分かっており、炎症性サイトカインが共通の病因である可能性が高いことが示唆されている。
排卵障害におけるインスリン抵抗性
・妊娠適齢期女性の月経不順の基本的概念は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に見られるインスリンレベルの調節障害に基づいている。高インスリン血症状態は肝臓による性ホルモン結合グロブリン産生の低下と協調して、過剰レベルのアンドロゲンを産生するよう卵巣の黄体細胞を刺激し、その結果、過剰な循環アンドロゲン濃度をもたらす。
またインスリンの上昇は、同様にアンドロゲンの上昇を産生するように脂肪組織を刺激する可能性がある。その結果高アンドロゲン血症が生じ、視床下部レベルでのGnRH脈動指標が阻害され、下垂体前葉レベルでの正常な排卵性ゴナドトロピンシグナル伝達が阻害される。
排卵周期が中断されると、過剰レベルのエストロゲンと排卵期プロゲステロンの不足により子宮内膜層が過剰増殖する。子宮内膜の過増殖は予定外の月経脱落を引き起こし、AUBを生じる。
治療的糖質制限が代謝性疾患を治療するメカニズム
・糖質制限食は代謝性疾患、特に2型糖尿病の主な治療法だったが、現在の治療戦略は医薬品による正常血糖の達成が中心となっている。そして脂質仮説の発展後、治療パラダイムは急速に低脂肪栄養モデル、ひいては高炭水化物治療レジメンへと移行した。
・糖質制限に関する文献から、代謝性疾患治療において内科的・外科的介入を用いない治療アプローチが成功していることが明らかになった。低炭水化物食は2型糖尿病の治療において低脂肪食と同等か、やや優れているという考え方も支持されている。低炭水化物食はトリグリセリド、HDL、体重などの代謝マーカーを改善することも示されている。
・炭水化物代謝からケトン代謝への転換は、トリグリセリド濃度の低下、高比重リポ蛋白(HDL)の上昇、アテローム性炎症マーカーの低下をもたらす。さらにインスリン濃度が低下し、インスリン抵抗性が改善されるため、2型糖尿病患者やPCOSの血糖コントロールが改善される。おおくの機関が心血管系疾患リスクを減らす方法として、添加糖質や精製糖質を減らし、一方で豆類や全粒穀物などのより質の高い炭水化物源を摂取することを推奨している。
PCOS女性におけるこの治療戦略は、関連危険因子である平滑筋腫発症リスクを低下させる可能性がある。
治療的糖質制限食(TCR)が一般的な婦人科疾患の予防および治療にどのように役立つのか
・近年、不妊症、PCOS、子宮内膜がんなど、女性生殖器系における一般的な内分泌疾患の軽減に糖質制限食が果たす役割が強調されている。炎症因子の慢性的な循環は高インスリン血症やインスリン抵抗性の特徴である臓器特異的傷害を引き起こす。炭水化物の摂取を減らすことは炎症マーカーの減少につながり、炎症マーカーを減少させることで子宮平滑筋腫や子宮内膜ポリープの発生に見られる平滑筋血管新生の病理学的発生を減少させることができる。
・TCR食が内皮機能障害と血管新生の原因となる異常な代謝プロセスに対処できるという説得力のある証拠から、食事介入が婦人科疾患の予防、改善、または起源を治療する可能性がある。米国産科婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists)がPCOSのライフスタイル治療で推奨する第一選択治療戦略において、TCRが直接的アプローチを提供する可能性がある。
まとめ
治療的糖質制限のような生活習慣に基づいた介入が不正出血を予防し治療する可能性がある。
国際機関では不正出血につながる婦人科疾患の治療には内科的および外科的管理が信頼されている。
臨床ガイドラインとエビデンスは、多嚢胞性卵巣症候群の第一選択治療として生活習慣への介入と血糖降下薬の使用を示唆している。
心血管疾患の減少および2型糖尿病の治療法として、治療的糖質制限を支持するエビデンスが利用可能である。
高血糖が解消すれば末端臓器へのダメージも少なくなる。子宮は末端臓器障害の受け皿と考えることができる。
アテローム性血管疾患の機序と不正出血の一般的な原因が重複している。