本日のブログは、月経不順の女性における月経周期中の関節弛緩の変化を調べた初めての研究をまとめてみたい。
アスリート、非アスリート問わず膝関節障害予防のヒントになるのではないだろうか。
前十字靭帯損傷(ACL損傷)は男性よりも女性に多く発生するスポーツ外傷で、ACL損傷発生率における性差は、月経周期で変動する女性ホルモンの影響が大きいとされている。
女性におけるACL損傷の潜在的危険因子として関節の弛緩が挙げられ、膝関節前方弛緩(AKL)、全身関節弛緩(GJL)および反張膝(GR)の観点から、それぞれACL損傷リスクと関連性があることが様々な研究で報告されている。
過去の研究では、AKL、GJL、GRはいずれも男性より女性で多いことが判明している。
AKL、GJL、GRは月経周期における女性ホルモンの濃度変化により変化する可能性がある。
リンクの研究は、月経周期が正常および不規則な女性非アスリートおよび女性アスリートにおいて、月経周期中の膝関節前方弛緩(AKL)、硬縮(stiffness)、全身関節弛緩(GJL)および反張膝(GR)の変化を調査したもの。
女性非アスリート19名(無月経n=11,稀発月経n=8)および女性アスリート15名(無月経n=8,稀発月経n=7)が対象に、月経周期中の4期に2回,AKL,stiffness,GJL,GRを測定。
Stiffnessは無月経群に比べ稀発月経群で有意に高かったが,非アスリート女性では月経周期期による有意差は認められなかった。
GRは卵胞期後期、排卵期、黄体期で卵胞期初期より有意に高かったが、女性アスリートでは群間における有意差は認められなかった。
エストラジオールは膝関節周囲筋の硬さに影響を与える可能性があり、女性アスリートにおけるGRは月経周期で変化する可能性が示唆された。
Menstrual Cycle Changes Joint Laxity in Females—Differences between Eumenorrhea and Oligomenorrhea
・結果は、女性非アスリートに限定すると周期相間におけるstiffnessの有意差は認められなかったが、希発月経群は無月経群に比べstiffnessが有意に高かった。
・GRは卵胞期後期、排卵期、黄体期で卵胞期初期より有意に高く、女性アスリートでは群間差は見られなかった。
・AKLおよびGJLは、女性非アスリートおよび女性アスリートのいずれにおいて群間および周期相間に有意差はみられなかった。
・女性非アスリートにおいてstiffnessは月経周期によって変化しなかったが、希発月経群では無月経群に比べ有意に高かった。
・月経周期の繰り返し(ホルモン刺激)が結合組織に長期的な影響を及ぼし、エストラジオール受容体の感受性が変化したり、靭帯が徐々に緩む効果を提唱する研究者もいる。
エストラジオール受容体はヒトのACL、骨格筋線維、毛細血管内皮細胞などに存在する。
月経周期における筋硬度の変化を調べた過去の研究では、ハムストリングの伸展性が卵胞期初期に比べて排卵期に高く、内側広筋と半腱様筋の筋硬度が黄体期に比べて排卵期に高いことが報告されている。
・無月経の女性非アスリートは、希発月経の女性非アスリートに比べてACL損傷の危険因子が少ない可能性が示唆された。
・女性アスリートにおけるGR は、卵胞期後期、排卵期、黄体期において、卵胞期初期よりも有意に高かったが、無月経群と希発月経群の間に差はなかった。この結果は、GRが月経周期に伴って変化するというこれまでの知見を支持する。
・今回の結果は、女性アスリートは卵胞期後期から黄体期にかけてACL損傷のリスクが高まる可能性を示唆している。
・女性非アスリート、女性アスリートともに月経周期中にAKLは変化せず、無月経群と希発月経群の間に差は見られなかった。AKLが月経周期で変化しないという先行研究を支持する。
・無月経群と希発月経群の間でエストラジオール濃度の差は確認されず、AKLには群間差が存在しない可能性が示唆された。
・今回の結果は、月経周期でGJLが変化することを示した過去の研究結果とは異なる。
GJLには、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群、関節可動域亢進など結合組織疾患の一部として起こる先天的なものと、反復性の微細外傷やスポーツ活動時の反復使用による靭帯の伸張によって起こる後天的なものがある。
GJLは、先天性弛緩やスポーツの影響を強く受けるが、月経周期の女性ホルモンの影響を受けにくいことを示唆。
結論
女性非アスリートに限定すると、無月経群に比べ希発月経群でスティフネスが有意に高くなった。
GRは女性アスリートに限定すると、卵胞期後期、排卵期、黄体期において、卵胞期前期に比べ有意に高かった。