アスリートにおける相対的エネルギー不足(RED-S)は、利用可能エネルギー不足(LEA)の健康およびパフォーマンスへの影響を説明する現象で、持久系女性アスリートによく観察される。
RED-Sは、エネルギー代謝、生殖機能、骨の健康、免疫機能、タンパク質合成、心臓血管の健康など複数の生理学的機能の障害を説明している。
RED-Sの背後にあるメカニズムはLEAとして説明され、乱れた食行動や摂食障害の有無にかかわらず発生する可能性がある。
また、心理学的要因がRED-Sに先行することもあるが、LEAは重大な心理的苦痛をもたらすこともある。
LEAは、男性と女性、エリートアスリートとレクリエーションエクササイズ、健常者アスリートとパラアスリート、年齢層問わず影響を与える。
いくつかの研究では、LEAに加え内分泌および代謝反応における性差が報告され、男性と比較して女性におけるLEAの脆弱性を示していることから、持久系女性アスリートはRED-Sの高リスク群であると考えられている。
LEAの根本的な原因として乱れた食行動(DE)などが報告されているが、運動依存症や食物不耐症との関連を調査した研究は不足している。
リンクの研究は、LEAリスクのあるアスリートにおける、DE、運動依存症、食物不耐症との関連を調査することを目的としたもの。
ノルウェー、スウェーデン、アイルランド、ドイツにおいて、週5回以上のトレーニングを行う18~35歳の持久系女性アスリートを対象とした。
参加者は、LEA in Females Questionnaire(LEAF-Q)、Exercise Addiction Inventory(EAI)、Eating Disorder Examination Questionnaire(EDE-Q)、食物不耐症に関するオンラインアンケートに回答。
参加基準を満たし、オンライン調査に協力した202名のうち65%がLEAのリスク、23%が運動依存症リスク、21%がDEだった。
LEAリスクのあるアスリートはリスクの低いアスリートと比較して、EDE-QとEAIのスコアが高いことがわかった。
EAIスコアはLEAのリスクを持つ選手で高く、DEを持つ選手を除外しても高いままだった。
DEのあるアスリートは食物不耐症をより多く報告した。
この研究では持久系女性アスリートはLEAおよび摂食障害のリスクが高く、両者の間に関連があることを確認。
LEAリスクを持つアスリートは運動依存症の症状を示す割合も高く、一次性運動依存症、二次性運動依存症ともに高いリスクが認められた。
多変量解析では、運動依存症の症状はLEAの予測因子として同定されず、食物不耐症も同定されなかったが、BMIの低さと食行動の乱れの症状は同定された。
運動依存症は持久系女性アスリートにおけるRED-Sの予防、早期発見、標的治療における追加の危険因子として考慮されるべきであると結論。
Risk of Low Energy Availability, Disordered Eating, Exercise Addiction, and Food Intolerances in Female Endurance Athletes
・研究の主な目的は、アスリートグループにおけるLEAリスクと関連する危険因子を明らかにすることで、研究が不足している運動依存症や食物不耐性も含まれる。LEAリスクがあるアスリートとLEAリスクが低いアスリートにおける食行動の乱れ、運動依存症、食物不耐症を比較することを目的とした。今回の研究における重要な新発見は、LEAリスクのあるアスリートは、顕著性、葛藤、および離脱症状など運動中毒の症状を示す可能性が高いということ。
・LEAF-Qを使用した結果、65.0%の選手がLEAのリスクを有し、これは女子持久系アスリートにおいて臨床的に検証された他の研究とも一致する。
・「正常な生理周期かどうかわからない」と答えた人が12.0%、「正常な生理周期」と答えた人のうち18.7%が「生理不順」と回答したことから、成人女性持久系アスリートには、女性の生殖に関する基礎知識が不足している人が比較的多いことが判明。
また、無月経や乏月経の頻度が高いにもかかわらず、月経機能障害と診断されたと報告したアスリートは2名のみで、これは月経機能障害がしばしば激しいトレーニングプログラムの当然の結果として受け入れられるという認識や、医療関係者のLEAに関する認識不足に関係していると思われる。
月経周期は重要な健康指標であり、持久系女性アスリートに対する月経周期機能に関する教育的介入が必要であるだけでなく、医療専門家の間でも認識されていないことは懸念すべきことである。
・LEAリスクのあるアスリートは、LEAリスクの低いアスリートと比較してBMIが低かった。
BMIの低さはロジスティック回帰分析において危険因子として同定された。
一方、LEAリスクのある女性持久系アスリートとLEAリスクの低いアスリートを比較してBMIに差がないことを見いだした研究もあり、結果に矛盾がある。
・今回の研究では、LEAリスクのあるアスリートは、LEAリスクの低いアスリートと比較して、EAIスコアが高いことが示された。LEAを有する持久系女性アスリートは運動依存症の症状を有する可能性が高い。
・カットオフポイントを超えるアスリートの約半数において、運動依存症は乱れた食行動を伴っていたことから、RED-Sを有するアスリートに対する治療介入には、食事パターンと運動行動の両方に対処する必要がある。
・運動依存症はしばしばLEAをもたらす過剰な運動と関連するが、トレーニング量とEAIスコアとの関連は見られず、これはアスリートにおける過去の研究と一致している。
・LEAとEAI項目には、生活における運動の重要性、家族や友人との葛藤、運動ができなかった場合のネガティブな感情に関する関連が見られた。この結果は、運動依存症はLEAリスクのあるアスリートにおいてより顕著であることを示唆しており、治療家はLEAおよびRED-Sのスクリーニングの際にこれらの性格特性に注意する必要がある。
・怪我は、運動依存症とLEAの双方の潜在的な結果であり、怪我に関する質問は低骨密度との関連からLEAF-Qの一部となっている。
運動依存リスクのあるアスリートでは、運動依存リスクの低いアスリートと比較して、怪我のスコアが高いことがわかり、運動依存リスクグループにおけるLEAリスクと運動中毒の関連性の説明の一部になっている可能性がある。
・他のレビューによると、持久系スポーツの運動依存症リスクは加重平均14.2%で、混合系種目の10.2%、一般集団の3.0%に対し最も高い。
本研究で報告された23.3%というリスク率は、これまでの研究と比較してかなり高い。
・トライアスロン選手は男性に比べて女性の方が運動依存症のリスクが高いことが分かっている。
・運動依存症は摂食障害のある女性患者にしばしば併存する症状で、二次性運動依存症と呼ばれる。
・乱れた食行動や摂食障害はLEAの危険因子としてよく知られており、この研究の結果もそれを裏付けている。
・LEAの原因は多岐にわたり、本研究ではLEAリスクを有するアスリートのうち26.5%のみが食行動の障害を有しいた。この結果から、大多数のアスリートにとってLEAは運動後の食欲抑制、低エネルギー密度の食事、最適なスポーツ栄養に関する知識の欠如、LEAの結果に関する知識の欠如、または頻繁に移動する忙しいライフスタイルといった時間や食事へのアクセス不足が適切なエネルギー補給の障壁に起因することが示唆された。
・食物不耐症を訴えるアスリートではLEAF-Qの総スコアが高く、これは胃腸スコアが高いことに起因していることがわかった。
また、食物不耐性はEDE-Qスコアが低いアスリートに比べて食行動の乱れがあるアスリートで、また、運動依存症リスクが低いアスリートに比べて運動依存症リスクが高いアスリートでより頻繁に報告された。
・食物アレルギーと診断されると、その後の摂食障害発症の可能性が高まることが示唆されている。